第2話 ある者の懺悔
グラグラ煮え滾る、内より出る感情を沈静する方法が私には分からないのです。
私は何れ、その激情に身を任せて凶行に走ってしまうのが何よりも恐ろしいのです。
貴方様にご理解頂けるかは不明ですけれど。
私、自然豊かで人口が百人ばかりの
父と母は同い年でして、十七の歳に結婚し、結婚した翌年に私が産まれました。母は私が六つの歳の頃に二十四歳と言う若さで病死致しました。それ以降二十六年間、父と二人で生活しております。
隣家との間には各々の家で管理する畑がございまして、隣家と言えど家屋自体の距離は離れており、遠い所ですと一キロメートル以上離れている事もございます。
それ程までに長閑な村で暮らしている私は、私を知る者からは“虫も殺せぬ人物”と評価を頂く事もございます。
えぇ、そうです。私は無駄な殺生を好みません。生きとし生けるもの、全て遍く尊い生命です。草木でさえ、無駄な間引きは致しません。生活の為に営んでいる畑ですら、感謝を述べてから収穫をしております。
私は、それ程までに殺生を好みません。ですが、私にも一つ…そう、殺生を厭わない程にたった一つ、許しがたいものがあるのです。
えぇ…人を殺害するなど、とてもとても良くない事だと理解しております!そう言った考えを持たぬよう、普段は私を生かしている遍く全てに感謝しているのです!食事の糧になってくれた家畜、畑の作物、湧き水、全ての自然に感謝をしております!
ただ、私の許しがたいものは、その感謝の念から外れてしまうのです!
隠居した事を良い事に、私に酒の金を集り、生活全般の作業を丸投げし、口から出るのは謝辞では無く、文句と嫌味しか出てこない。挙句の果てには作った全ての飯に関して毎度文句を言い、こちらが反論すれば「親に向かって、なんだその態度は!」と、私を鞭打つ隠居した父…今まで育てて貰った恩義もありますし、ここまでの態度なら、こちらが目を瞑りましょう…ですが、ここから先の事は私にも自尊心という物がございます…私の激情が怨嗟の炎となって、轟轟と音を立てて燃え上がる原因なのです…
あぁ……申し訳ございません…主よ、お許しください。思い出して泣き喚く弱い私です…お許しください…涙が引けば申し上げますので…
…全て申し上げます。あの男、実の子供に姦淫を強要するのです。
初めて強要されたのは、母の没後の翌年です。当時、私は七つの歳でした。
あの男は「小さい頃の母に、とても良く似ている」と言いました。まだ年端も行かぬ私を風呂に入れながら、泡の付いた手で身体を弄り、肛門に指を入れてきました。私がその異様な雰囲気と痛みから逃れる為に、あの男を押し退ける事が逆鱗に触れたのでしょう。力づくで組み伏せられ、いきり立ったあの男の汚らわしい一物で無理やり貫かれたのです……私は身を引き裂く痛みに泣き叫びました。肛門は子供の手首程の太さの一物を貫通された事で、大きく切り裂かれました。大量の血が流れ落ちる感触の不快さを、今でも覚えております。両腕で地面を掻き毟ったせいか爪は割れて剥がれて血に塗れ、小さく折りたたまれた両足を不規則にバタつかせて悪夢以上に悍ましい行為から脱出しようと必死でしたが、逃れる術などありませんでした。
一度行った悍ましい行為に味を占めたあの男は、それから毎夜、私を慰み者にしてきました。私の身体が成長期を迎えて力が付き、幾度か反抗した事もございます。その度、あの男は私が死んでしまっても構わない程の暴力に訴え、力任せに姦淫を行うのです。
何度も何度も…二十五年間、何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も!!!!!!!!!!!!!
主よ!これが地獄で無いとしたら、一体何が地獄になるのでしょうか!私が瀕死の重傷の時でも、あの男は家事を要求します!自分の生活を改めません!私はあの男の便利な道具ではないのです!
もう、うんざりだ!全て隔離された生活の、あの家が!環境が!
あの男に「母に似ている」という理由だけで伸ばし続けなければならない、この髪も!乱暴に一物を去勢されて、男にも女にもなれない…中途半端に壊されたこの身体も!この中途半端な身体を、「男ではない」と、陰で指差して笑いものにする村の女連中も!好奇心から、あの男と同じ様に私を女の様に慰み者にする村の男連中も!
…ふふ………あはははははははははははははははははははははははははは!!
この村の皆、誰もあの男に口出ししません。村長でしたし、まだあの男の取り巻きが健在です。あの男の気分を害せば、私の様に痛めつけられますから。
あぁ…主よ、申し遅れました。私のたった一つの許しがたいものは、この村に住む私以外の連中です。全員、死んでしまえば良い。
…グラグラ煮え滾る、内より出る殺意を沈静する方法が俺には分からないのです。
俺は何れ、その激情に身を任せて凶行に走ってしまうのが何よりも楽しみなのです。
貴方様にご理解頂けるかは不明ですけれど。
お仕舞い。
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