第2話 こんなはずじゃなかった


「前提として、本人達の知る所にある」と先に述べたが、別に最初から大ぴらにしていたわけでは決してない。


確かに学生時代から妄想癖のあるタイプではあったが、間違ってもそれを世間に公表する癖はなく、自分の中でとどめていた。

所謂「偶にどこ見ているか分からない」という厨二病臭い見られ方をされるだけの、ただの陰キャであったのだ。


その頃は実に平和であった。

唯一、地元の友達にはそれらを『とりとめもない日々の妄想』として垂れ流していた。

例えば、『ノンケ先輩×生意気先輩』『目の綺麗な上司×ボルダリング先輩』等々、様々なカップリングが存在していた。そのカップル達を、ムカつくことがある度、または特に何も無くても想像していたのだ。


しかし、それが早くも崩れたのは社会人1年目の冬のことである。

あまりに過酷過ぎる現場に脳がヤられていた頃、同じ部署の同期とようやっと1台の車を任され、共に現場移動するようになった際、確か私が眠気覚ましに投げかけた話題がそういった類のものであったと記憶してる。


『……青柳さん、さっき防寒具として”警視庁”の上着渡されてたよね。……どういう気持ちで着てたんだろ』


これが私の妄想垂れ流し生活の記念すべき第一歩目となった。

ある作品の撮影中、あまりの寒さに直属の先輩が他部署から作り物の上着を渡された場面である。


当然ながら、それを言われた同期からは『……いや、特に何も思ってないやろ』と困惑の返答を貰った訳だが、更に脳がイカれていた私はそれに重ねるように言ったのだった。


『いや、あの人自分がそれなりにモテること知ってるやん。しかも上着渡されたの、こんなに人がいてたったの3人やで??しかも3人共モテる類いの人。自分達だけが”警視庁”背負って何も思わん訳ないやろ。絶対”俺達イケてる”って思ってるわ。舞台衣装かっつーの』


運転しながらそう宣った私の言葉に一瞬の困惑と、その後の大爆笑をしてくれた同期の笑い声が今も忘れられない。私の妄想が人の関心を得るものだと初めて知った瞬間であった。



それからというもの、積極的にその同期にも私の妄想を語ったのだった。

『例の3人組は下積み10年でようやっと日の目を見たアイドルグループ』

『アイドルだからそれぞれキャラ設定がある』

『”表の性格”と”裏の性格”がある方がプロデュース的には正解』等々、実に好き勝手なことを宣っていたのだ。

それらの妄想群を私は、私が勝手に付けたアイドルグループ名と掛けて『三銃士』と名付けることにした。ダサい等という異論は認めない。だってあくまで私の妄想だもの。


ここで、久しぶりに『三銃士』の妄想を語りたいと思う。

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酔った勢いで投稿する社会人4年間のBL妄想 するめするする @surusurusurume

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