スーパーの店員さん曰く「お箸やスプーンは御入り用ですか?」と。
源なゆた
スーパーの店員さん曰く「お箸やスプーンは御入り用ですか?」と。
「お
「三
「三千と一本!?」
「ええ、三膳と一本で」
「(確かにお
「? いえ、
「
「いえ、普通の家ですよ」
「……入り切りますか?」
「何がです?」
「その、三千と一本を使われる、ご家族(?)が」
「ええ、もちろん。確かに私は大きいですが(笑)」
「ああ、いえ、そうですね、ははっ(わざわざ誤魔化すなんて、もしかして口に出せない自由業の……)」
「はっはっ、それで、頂けますか?」
「あ、失礼しました。在庫の確認と、上の許可を貰えればですが」
「上の許可!?」
「ええ、何しろ数が数なので」
「三膳と一本ですよ!?」
「ええ、三千と一本ですから」
「そう……ですか、大変なんですね(不景気だしなぁ。そんなところまで切り詰めて……)」
「ええ、ちょっと流石に……ですが、どうにか頑張って勝ち取りますから!(だからお店潰さないで下さいお願いします!)」
「……わかりました。お願いします」
「はい」
【ご来店の皆様、本日はうし屋へようこそおいで下さいました。うし屋では毎日様々な商品を取り揃えてお客様をお待ちしております。年末年始も朝九時から夜九時まで毎日営業、うし屋をどうぞよろしくお願い申し上げます――】
【――業務連絡、業務連絡。店長、店長、レジ三番まで至急お願いします。店長、店長、レジ三番まで至急お願いします】
「わざわざすみません」
「いえ、こちらこそお待たせしてしまって申し訳ございません」
「いえいえ、こちらはお願いしている立場ですから」
「そうおっしゃって頂けて大変ありがたいです」
「いえ、こちらこそご丁寧にありがとうございます」
「いえいえ、あはは」
「あっはっはっはっ」
「富田くん、何があった?」
「店長! あ、すみません、ちょっと失礼させて頂いても?」
「どうぞ、お気になさらず」
「すみません」
「それで、何だね富田くん?」
「そのですね、あちらのお客様に、スプーンを三千と一本お渡ししたいんですが(小声)」
「三千と一本!?(小声)」
「はい、その、例の数字の
「足すと二十のアレか?(小声)」
「足すと二十のアレです(小声)」
「んん……うち始まって以来のことだ。良くはない、良くはないが、確かに要求はスプーンだけなんだな?(小声)」
「はい、あとは普通にお買い物を(小声)」
「ふむ……今回だけ、ということにしてお引き取り頂くのが無難だろう(小声)」
「大丈夫ですか?(小声)」
「なに、段ボール一個分だ。私が出してくる。少しだけ待ってもらえ(小声)」
「はい、ありがとうございます(小声)」
「良く冷静に対応してくれた。頼むぞ(小声)」
「はい!(小声)」
「お待たせしましたお客様。大変心苦しいのですが、店長が取ってまいりますので少々お待ち下さい」
「店長さんがわざわざ!?」
「はい、数が数ですので」
「三膳と一本って、意外と大変なことだったんですね」
「そう……ですね、あはは」
「いつも気軽に頼んでて、申し訳なかったな」
「(いつも気軽に!?)……いえ、ただ、当店では今回だけにして頂けると……」
「そこまでですか!? 仕方ないですね、このご時世ですし、わかりました」
「ご理解頂きありがとうございます」
「いえ、そこまで大変なのにご用意頂くなんて、むしろすみません」
「いえいえ、こちらこそ申し訳ございません」
「いえいえ」
「いえいえいえ」
「いえいえいえいえ」
「お客様! 大変お待たせ
「段ボール……?」
「富田くん」
「あ、一本……はい」
「よし。……三千と一本、確かにご用意致しました」
「随分と……大きいですね?」
「三千入っておりますから」
「三膳……普通の(お箸)ですよね?」
「はい、普通の(スプーン)です」
「そうですか……(何だかよくわからないけど、せっかくご用意頂いたんだし……)ありがとうございます」
「はい。あ、シールを貼らせて頂いても?」
「はい、もちろん」
「ありがとうございます……はい、では、どうぞ」
「はい、ありがとうございます」
「富田くん」
「はい。では、お会計ですが……」
「はい」
「八十九万三千と一円になります」
スーパーの店員さん曰く「お箸やスプーンは御入り用ですか?」と。 源なゆた @minamotonayuta
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