第5話

「鬼畜! 魔王!」

「魔王ならいるでしょ、そうアサヒちゃんの目の前に、何体も」


 そうなのである。

 七大魔王とかいう得体の知れない、一体だけでも規格外の存在が全員集結して、初級スキルを獲得したばかりのまだまだ駆け出しの魔法使いを虐めているのである!


「アサヒちゃんってば折角獲得したスキルポイントをバランス良く振っちゃって、初級スキルしか獲得出来なかったからね。セオリー通りなら一つだけでも良いから上級スキルを獲得して、楽をするものなんだけど」

「そういう大切な事は先に言ってよ!」

「テヘペロ!」


 上級スキルどころか、最上級スキルを乱発するような魔王様方は高笑いしながら、私を、私だけを攻撃してくる。

 モンスターハウスでもそうだった事だが、七大魔王様からも恐れられているらしいアカネさんは可愛らしく舌を出した。可愛いじゃねぇか、畜生! 

 確認しなくても解る。つまりアカネさんは私に楽をさせるつもりが一切無いのだ。私は今日もひたすら逃げの一手である。

 数少ないチャンスを狙って反撃してみたけれど、ダメージの判定すらなかったのだから、勝負になりませ~ん(涙) というかこれ、明らかに虐待なんじゃ・・・


「アサヒちゃん! 今最高に輝いているわよ!」

「アカネさんこそ、最高に良い笑顔です!(怒)」


 あの七大魔王を相手に反撃してみせた根性は流石は私が見込んだアサヒちゃんである。もうボロボロ泣きながら、死に物狂いになっちゃっているけどね! 

 前回と同様かそれ以上の速度で成長していくアサヒちゃん。当然である。あれらの魔王は一体で、上級モンスター一個師団クラスなのだから(笑) 

 前回も思ったけれど、アサヒちゃんは本当にタフだ。体力も認めるべきだが、その気力が凄まじい。決して折れない心、関心関心。

 まぁ、例によってメニュー画面を開く余裕がないせいで、新しいスキルを獲得する事が出来ないあたりが試練かな? 

 それでも、種明かしを一つするならば、ここユグドラシルでは、レベルアップによるスキルポイントの割り振りは手動で行う必要があるのだけれど、ステータスアップだけは、冒険者によって個性がある為の措置なのだが、自動で行われているのである。

 つまりそれがどういう事なのかと言えば、アサヒちゃんはこの逃げてばかりの戦闘(?)の中でも確実に実力をつけているのである。

 お、今の身のこなしは良かったなぁ・・・


「モンスターには苦手な属性がある事もあるから、色々な属性のスキルを持っているアサヒちゃんはどんな相手とも渡り合える可能性を持ってはいるのよ」

「効かなかった! 効かなかったよ!」

「だって魔王だもの、初級スキルなんて当然効果なんてある訳がないよね?」

「やっぱり確信犯か!」

「いやいやお姉さん感動しちゃったよ、ホントホント」

「アカネさんは鬼でも悪魔でもなかった、いっそ邪悪な女神だわ!」


 うん、実の母がまさしくソレ。


「なんの比喩でもなく、ホントに三日三晩逃げまわったのよ!」

「立派になったねぇ」


 最初は半日もたなかったというのに、二回目でこの成長ぶり、驚異的である。

 アサヒちゃんはどうやらその辺りの自覚が足りないようだけれど、気力だけは十分にSランク相当だと言えるだろう。予知が出来ないのも納得である。

 どんな試練も乗り越えてしまう主人公気質は予知を軽く超えてしまうのだ。俗に言う奇跡を起こすというやつか、父さんの話では極々稀に存在するらしい。

 人間って素晴らしいね!


「そんなアサヒちゃんにプレゼント、何でも好きな装備を揃えてあげよう! このリストから選んでね」

「え!? 正気!?」

「そこはせめて本気と聞こうよ」


 パアアっと顔を輝かせながら、これまでの教訓からなのか、リストを慎重に吟味するアサヒちゃん13歳、チョロい。可愛いなぁ、ホント。

 レベルも60を超え、いくつかの上級スキルまで獲得し、いまや一人前の冒険者である。

 それでも、彼女の目指す理想の魔法使いにはまだまだ遠いのだけれど、ちょっとしたお祝いぐらいはよろしかろうと私も思ったのである。マル?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る