クリスマスの秘密

平成03

第1話

「パパー、庭のあの木ってなんていうのー?」



 冬休みの宿題はもらってきた日にやるのがポリシーらしく、晴人は帰宅したばかりの拓也に駆け寄り質問する。




「んー? あれはウツギって言うんだぞ。漢字だと『空っぽの木』で空木。花言葉は『思い出』とか『秘密』なんだけど、理由知ってるか?」



 首を振る息子に「茎の中が空洞だから、中に秘密や思い出を隠してるぞって言うんでそうなったらしい」と教える拓也。「パパすごいや!」と言ってプリントに何かを書き込む晴人を見ながら、私は例の庭木に目をやった。




 あなた、私みたいね。




 何となくで大学まで行き、夢中で打ち込んだことも特になかった私。だけどサークルの勧誘で拓也に出会って、空っぽだった私は彼と、彼の秘密で満たされた。




 茶色のボブが好きなこと。ゆるめのパーカーが好きなこと。実は辛いものが苦手なこと。幽霊全般がダメなこと。耳を責められると弱いこと。




 結婚して更に、私は彼の「秘密」でいっぱいになった。父の日にもらった手紙を何度も読み返して泣くこと。頼れる先輩っぽいのに家では私によく泣きつくこと。喋るのが苦手で、大事な商談前には私がカンペを用意してあげないとダメなこと。




「さーて、良い子はもう寝る時間だぞ晴人。何しろ明日はクリスマス。早く寝ないとサンタさんが来てくれないからな」



「うん、わかってる……! おやすみ、ママ」




 晴人もクリスマス前のドキドキはあるようだが、眠気には勝てないらしい。私のパーカーの裾を引っ張って「おやすみ」と言ってくれたが、ほとんど言えていなかった。




 寝かしつけ担当のパパを見送ってから、テーブルの上を片付ける。晴人が起きてすぐに見つけられるよう、プレゼントはテーブルの真ん中に置いた。中身はブロックの警察署セットだ。




 拓也が戻るまで少し時間がある。興味が湧いたので、ウツギについて少し調べてみることにした。




 初夏に白い花を咲かせるとある。それが私にはまるで内に蓄えた秘密を白日の下に晒すように思われて、ついクスッと笑ってしまった。





「いやー、晴人は案外すぐ寝たよ。ほんとにサンタさんは偉大だね」




 戻ってきた拓也はパジャマに着替えていた。テーブルのプレゼントに目をやると「まだサンタさんの正体は、晴人には秘密だな」と私に耳打ちした。茶髪のボブを撫でる手は今日も優しい。



「そうね。でもちょっと残念。明日、休めないんでしょう?」



「ああ、ごめんな。クリスマスだってのに外せない出張が入っちゃって」



 私はもう一度庭のウツギに目をやり、覚悟を決めた。




「何のこと? 明日は会社の後輩の美希ちゃんと温泉、でしょ?」




 白くなる拓也の顔。でもね拓也、私が咲かせるウツギの花はまだまだ2分咲きだよ?

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クリスマスの秘密 平成03 @heisei03

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