「し」から始まる???の話
「しょ…r…なん!」
僕は謎の叫び声で目を覚ました。
何をしていたんだっけ。たしかアリクイに田舎に飛ばされてくねくねを見て…。くねくね?そうだ。なんで、なんで僕は無事なんだ。
ここはどこだ?
まだぼんやりした頭のまま辺りを見回す。
勉強机。コート。通学鞄。やりかけの宿題。僕の部屋だ。間違いなく僕の部屋だった。安心して思わず体から力が抜ける。
そこではっとした。
あのアリクイはどこだ?いくら見回しても、この部屋にいる気配はなかった。もしかして、今までのは全て夢だったのか?あのアリクイも、くねくねも…。
しかしその直後、僕の一縷の望みはあっけなく消え失せてしまった。
「食糧難!食糧難!食糧難!」
僕の部屋のドアが勢いよく開いて、奇奇怪怪な風貌のおじさんが入ってきた。食糧難、と立て続けに喚きながら。さっきの謎の声はこれだったのか、と納得している…場合ではない!なんだこの人は。なぜか学ランに身を包んだこのおじさんは、まず背が異様に低い。1メートルあるかないかのレベルだ。なのに顔はしっかりおじさんである。ちなみに髭はきちんと剃っているタイプのおじさんだった。額には脂汗が滲み、無駄に大きい目をさらに見開き、白目は赤く血走っている。その目は僕を捉えるわけでもなく、ただ虚空を見つめている。ずっと食糧難と叫びながら。
怖い。怖すぎる。
アリクイには勝てずとも、くねくねと互角に渡り合えるくらいには怖かった。いや言い過ぎか。レジェンドのくねくねに失礼だな。
なぜ僕はさっきから、たびたび余計なことを考えてしまうんだ?これもアリクイに操られているのか?
おじさんは叫び続けている。普通に考えたらただの頭のおかしい人なのかもしれないが、だとしてもなぜ僕の部屋に入ってくるんだ。
「おや、無事でしたか」
背後で聞き覚えのある声がして、振り向く前にその声の主がわかってしまい絶望した。
アリクイだ。
「大丈夫。あれは夢ですから」
アリクイは僕に向かってそう言った。
いつの間にかおじさんは叫ぶのをやめていて、僕と同様にアリクイを見つめていた。
もしかしたら、彼も声を出したら死ぬのかもしれないと思った。怪異(おじさんが怪異かどうかは定かではない)にも上下関係というのはやはりあるのだろうか。多分シンプルに強い奴が上に立つのだろう。その理論だと、やはりアリクイはかなり恐ろしい存在だ。
「食糧難おじさんですね」
アリクイがおじさんのほうを見て言った。あまりにもネーミングがそのまんますぎて頬が緩みかけたが、笑うと殺されると思うと気が引き締まった。
おじさんは黙って頷いた。
「今は大して食糧難じゃありませんから、お帰りください」
アリクイが優しく言う。
おじさんは窓から帰っていった。アリクイもいつの間にか部屋からいなくなっていた。
それから三日間、アリクイが僕の部屋にくることはなかった。
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