第3話 18:28 1967年8月23日

街を抜けると長い道が続く。

両脇を草原が挟む道だ。

まばらに木が生えて、時折風がどこからともなく吹く。

うるさな音を立てた車がやってきては、いつまでも視界に残る。

次にうるさな車がやってくる頃には消えてしまうのだが。


随分と漕ぎ続けた。

途中立ち漕ぎもしたから体力も削られた。

どうやら彼の持ち主はあまり足が長くないということに随分してから気づいた。

サドルの位置が低すぎるのだ。

それがわかった頃にはもう空は紺色になっていた。


なぜ気づいたのか。

それはようやく辿り着いた隣町の大きなガラスに映る自分の足を見たからだ。

随分と長く美しい足を見ていたほどに、彼があまり美しくないことに気づいた。

所詮自転車などそういうものだろうとも思ったが、あまりに僕とマッチしていない。

三輪車の方が長い足を持っているの思ったほどだ。

そこで理解した。

また僕は彼に失礼をはたらいた。

彼を小洒落たブルジョワの青年と同じ待遇で扱ってしまっていた。

君は才能を持った好青年といるのだ。

サドルをめいいっぱいあげて、それでも低い気がするのだが、まあいい。


18:28 1967年8月23日

どうしたものか。

次の街に行く頃には今残っている空の色は完全に消えてしまうだろう。

あかりのついた商店のベンチに彼を置いて、僕は大きなフライパンを買った。

それをナップサックに放り込むと、勢いよく街を出た。

次の街まで30km

9時までには着くだろう。

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