第2話
『村人Aはどこに向かってるんだ?』
『分かりません』
『うーん創造神スタイル極まれりだ』
その後数分程で目が覚めた。
相変わらず頭痛が酷い、それになんだか体が気怠い。
確か声が言うにはMPというものが無くなったからだと言っていた。
このスキルを持ってから気を失ったり体調は悪くなったり最悪なことばかりだ。
「気分転換に外に出たはいいけど」
時間帯はまだ早朝。
外には人はいるが、知り合いは見当たらない。
いや別に誰かに会いたくて外に出たわけじゃないが、何かしら良い事でも起きないかと思ったが
「はぁ」
『ため息が出たな』
『ため息が出ましたね』
俺の心休まる時間というのは永遠と無くなってしまったのかもしれない。
結局俺は歩き続け、近くの川辺にやってきた。
『綺麗な場所だな』
『私が手掛けた世界なんですから当然です』
まぁ……多分、本当にこの声の主は神様なのだろう。
創造神に破壊神。
スキルを作り、生物を作り出した世界の神様。
そんな張本人達が思ったよりも人間臭いことに驚きだ。
『川をボーッと眺めてるぜ』
『動きがないと暇ですね』
『まさにゆっくりだな』
その上、俺を見物している様子。
このまま見限ってくれた方がいっそいいのかもしれない。
そう思っていると、どこからか声が聞こえた。
『これは』
『まさかの展開ですね』
嫌な予感がした。
咄嗟に隠れる俺は、声のする方向を見つめる。
そこに現れたのは1人の少女と
「あれって」
『魔物の登場だ!!」
『あれはリトルベアですね』
人間2人分の体長をした魔物の姿だった。
「な、なんでこんなところに魔物が」
『確かに。ここいらは定期的に自警団が魔物を狩っているはずでは?』
『残念ながら近頃の自警団は他の任務で動けていませんでした。その証拠の一つが例のハイポーションですよ』
自警団にハイポーション。
その言葉に、自警団のリーダーである父さんと金色の液体が頭をよぎる。
一体何が……いや、今はそれよりも
「あの子を助けないと」
俺は急いで村の中心部へと走ろうとする。
『どうやら助けを呼ぶようだぜ』
『力がないのであれば正解ではあるでしょう。ですがこのままでは少女は助からないでしょうね』
その言葉に足を止める。
『止まったな』
『止まりましたね』
『神託だぜ』
『神託ですね』
そうだよお前らのせいだよ。
「クソ。どうする」
『困ってるようだ』
『当然です。そう簡単に勝てるほど魔物はやわに作られていません』
『意地悪な神様だぜ』
『形を作ったのは私ですが力を注いだのは貴方ですよね?』
『我は何も知らないな』
魔物の経緯は分かったから、どうするか教えてくれよ。
『ところで、村人Aに勝ち目はあるのか?』
『現状はレベル的に不可能です』
『所謂負けイベってやつだな』
『しかし負けイベには大抵条件があるものです』
『今回の場合は時間ってところか』
時間?
とにかく、どのみち時間を稼ぐしかないよな。
『おっと飛び出した!!』
『何か思いついたのでしょうか?』
俺は逃げ惑う少女に向かって叫ぶ。
「こっちだ!!」
俺の声に気付いたのか、こちらに駆け出す。
相当頑張って逃げたのだろう、全身傷だらけだ。
「ん?」
そこでようやく気付く。
どうやら魔物に追われているのは近くに住んでいる同い年の女の子だった。
まぁいい、相手が誰だろうとやるしかない。
「おい魔物!!こっちに来い!!」
魔物は五感が発達しているという話を聞く。
こうして大きな声を出せば、自然と俺の方に襲いにかかるはずだ。
そう、俺に。
「バカ!!」
『おっとこれは』
『恐怖で足がすくみましたね』
『所詮村人A。いや、むしろ村人Aにしてはよくやったと言うべきか』
うるせぇ!!
だが、馬鹿にされたお陰で少しだけ震えが収まる。
「交代だ。真っ直ぐ村に走れ」
「がと」
か細い声を上げながら女の子は村へとふらついた足で走る。
そして俺は彼女から離れるように近く森へと逃げた。
魔物はどちらを追うか迷う様子だが、俺が立ち止まればこちらを標的に変えて走り出した。
『魔物は基本的に知能が低いですからね』
俺がどれだけ危険だろうとこの声は淡々と解説を挟み続ける。
だからこそ、もしかしたらという淡い期待で走り抜ける。
『この魔物、子供相手に追いつけないのはどうなんだ?』
『リトルベアは視覚が狭いんです。だから近付けば近付く程頭を振らなければ獲物を見失うんです』
『肉食獣極まれりってやつだな』
その言葉を聞いた瞬間、俺はジグザグに走り出す。
すると魔物は首を横に何度も振りながら走り出す。
『おぉ、奇跡的に噛み合った』
『魔物も困ってるようですね』
身体能力は圧倒的に奴の方が優れているが、魔物は中々俺に追いつけずイライラしている様子が分かる。
『リトルベア、相当頭にきてるみたいだ』
『ちょっと危険ですね』
危険?
むしろ順調だと感じるが。
『あーこれは』
『ヤケクソになりましたね』
突如、後頭部に衝撃が走る。
『馬鹿だぜ』
『ビーストモード。魔物特有の能力ですね』
何が起きたのか。
今までとは違った頭の痛みを堪えつつ、目を開ければ視界が真っ赤になっていた。
「これって」
触れると分かる。
それは俺の頭から流れた血だった。
どうやら俺は奴から攻撃を食らった後、小さな段差のような場所に落ちてしまったみたいだ。
「あいつ、あんな見た目だっけ」
体に力が入らず、後ろを振り向けば全身が真っ赤になった魔物が暴れ回っていた。
『あれって一体なんなんだぜ』
『ビーストモード。全身の血液を高速で動かすことで可能な状態。今のリトルベアの身体能力は先程の2倍近くあります』
『なんだそれチートじゃないか!!』
『勿論欠点もあります。まずシンプルに寿命が縮みます』
『奥の手っぽいな』
『そして馬鹿になります』
『馬鹿に塗る薬はないが、馬鹿を馬鹿にする力はあるんだな』
『結果、あの魔物は村人Aを見失っています』
通りでこんな格好の餌を前に暴れ回ってるわけだ。
俺はなんとか体を動かそうとしたところであるものを見る。
『グロ』
魔物の近くにいた小動物が逃げ出そうとしたら直ぐ様潰された。
それを見た俺はその場でジッとした。
『これは偉いな』
『馬鹿ではありますがその五感は今まで以上です。少しでも動けば間違いなく即死です』
だが待てば必ずいつか気付かれる。
今死ぬか、後から死ぬか、それだけとなった。
「死ぬ……のか?」
その事実を知った時、俺は妙に冷静だった。
血の気が引いているからか、それとも別の要因か。
理由は定かではないが、少なくとも俺は頑張ったのだ。
「少しは、父さんみたいになれたかな」
俺の頭上に影がかかる。
見上げれば、巨躯が俺を見下ろしていた。
その目は殺意に満ち溢れている。
「あぁ……クソ」
嘘だ。
俺は今、自分に嘘をついた。
死にたく無い、本当は死にたくなんてない。
嫌だ、今も、3日後に死ぬことも、全部嫌だ。
俺は生きたい、例え神に笑われたって
「俺は生きたい!!」
俺は地面にある砂を投げつける。
一瞬だけ魔物が怯むが、それは関係のないことだった。
そして魔物はその人を簡単に切り裂く前足を掲げて振り下ろした。
あぁ、これはもう
『見事クリアですね』
そして魔物の前足が俺の目の前で動きを止めた。
そしてゆっくりと千切れ落ちる。
吹き荒れた暴風につい瞬きをすれば、目を開けた時には魔物は切り刻まれていた。
「大丈夫?」
金色の髪と尖った耳、そしてこの世のものとは思えない美しさ。
「はは、幻覚まで見え始めたな」
俺は伝説の種族に見惚れながら、意識を手放した。
スキル『神託』から始まるゆっくり実況解説旅 @NEET0Tk
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。スキル『神託』から始まるゆっくり実況解説旅の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます