第7話

彼女たちの暮らすこの海には、深海に根付いたただひとつの大樹、深海樹がある。




深海樹は一年に一度だけ葉を落とし、その葉は海に広がり、波に流され、いつしか粉々になって海に還る。


ごく稀に海に帰らずに形を残して結晶化するものもあるらしいが、ラピスは見たことはなかった。


葉のほとんどが、海に還り新たな命の糧となるための旅に出るのだった。




葉を全て落とした深海樹には、すぐにまた新たな葉が芽吹く。


それはこの海に暮らす誰よりも永く生きた、この木の神秘。




陸に生える緑とは違う水の色を濃く写した葉は、唯一無二の宝石のようで、

その葉が一度に芽吹いて開く様は、他に感じたことのないほどの感動と衝撃を与えた。




そのため、この瞬間は毎年お祭り騒ぎ。


たくさんの海の生き物たちがこの楽園を訪れて、その場に立ち会うのが至福なのだった。




でもそんな深海樹の周りの様子がおかしいなんて、とても気になった。




「・・・レンさんも気にしてた」


「レンさんここにきたの?」


「うん、・・・嵐で客が来なくて暇だから、歌聞かせてって、今朝来た」


「そうなんだ、レンさんらしいね」


「・・・うん」




また会話が途切れるとラピスは少し思案して、ぱっと顔を上げた。


そして、イヴに向き直ると意を決したように視線を向けた。

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