第3話

しばらくすると、人魚は睫毛をわずかに震わせた。




「う、うーん」




アオウミウシはようやく仕事を終えて、顔から降りた。




「よく寝たぁ」




人魚は目を覚ますと、寝ぼけ眼のままゆっくりと起き上がる。


腕を海面へ向けて伸ばし、寝起きの身体をバキバキといわせながら欠伸を噛み殺した。




「あいたたた」




寝すぎて強張った身体を伸ばせば、ようやくしっかりと目が覚めた。


ふと頭上に反射する光を見上げると、昨夜は降っていた雨はすっかり上がったようで、もうアカタチのような朱い色が混ざっていた。




海中においても、日の沈むその瞬間だけは朱に染まる。


神秘的な光景に見惚れたのも束の間、はっと用事を思いだし青ざめた。




「やばっ。・・・イヴ、怒ってるかなぁ」




今日の昼に訪ねることになっていた友のことを思い出して、焦る。


人魚は急いで肩にアオウミウシを載せると、自分の寝ていたシャコガイの貝殻から飛び出して、岩場を目指して泳ぎ出した。




サクラダイの色に似た尾びれを力強く振って、水を切り裂いていく。


所々で遭遇した魚の群れをかわしながら、浅瀬のほうへ急いだ。

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