第20話

やばい。


肩が小刻みに震えた。




ジャージの袖で顔を覆う。


息苦しさが更に辛くなったけど、ぐっと腕に顔を押し付けた。




俺は込み上げる笑いを堪えていた。




「ふっ、ふっ、ふっ、ふぅー……」




いつの間にか追い付いた先生が、俺の隣に立ち止まった。




滴り落ちる汗を首からかけたタオルで拭ってるけど、呼吸は乱れていなかった。


すげぇ。




「佐久間」


「はい?」




のんびりとした声で呼ばれて顔を向けた。




あ、にやけてなかったかな。


まぁいいか。




「どうだ?」




また脈略のないセリフ。




でも、もう答えられる。




「俺、走りたいです」


「そうか」


「はい」




変な会話だと思う。


第3者が聞いていたら、首をかしげてるに違いない。




「先生、」


「あ?」


「俺、陸上部に入ります」




決めた。


もう決めた。




やりたいこと、見つけた。

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