第9話

本気でそんなことを考え始めていると、




「ふっ、ふっ、ふっ、ふっ」




ん?


聞き覚えのある音が聞こえてきた。




「ふっ、ふっ、ふっ、ふっ」


「……先生?」




俺は草むらをごろんと転がって反転する。


そのままひょっこり道路を覗き見た。




まんまるい人影が以外と軽いフットワークで近づいてくる。




今日も走ってんのか。


頑張るなー。




俺は身を隠したままその姿を目で追う。




いつものだらだらした歩き方とはまるで違うその動きは、見ていて感動さえ覚えた。


ぽよよんぽよよん跳ねる腹は笑えるけど。




でも、


なんか……






俺に気付かず通り過ぎていく。




前しか見ていない視線。




俺はまた、姿が見えなくなるまで見ていた。

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