影踏みとお気に入りの記憶

「遥!!無事だったのか?!」


「う、うん..」


「良かった..」


私の前で安堵の息を吐く陸。


心配してくれたのは少し嬉しい。


が、きっとこれも私のせいなのだろうか。


そういえば私が紫色のワニに喰われたあと、


皆はどうしてたんだろうか。


後で聞いてみようかな。




「ねぇあの子誰?」


そう言って菜々の指差す方を見ると、


居たのは、


真っ黒で顔がよく見えない少女だった。


だけど1つ分かるのは笑っていること。


何だかこの子、どこかで見た気が...




その時


【海夏人くんの影つーかまえた!!】


と言いながら、


いつ出ていたのかも分からない


海夏人の影を踏む。


途端、海夏人は消えた。


「は..?」


「海夏人..?海夏人!!どこ行ったのよ..」


困惑の声を露わにする皆。


だけど、私はその居場所を知っていた。


あの瞬間、少女が影を踏んだ瞬間、


私は思い出した。


あの少女は小さい頃の私であると。


気づいた理由はあの子が私のお気に入りであった


水色のブレスレットをつけていたから。


あれは私が化け物を作った時、


『友達の証』として私と化け物たちと


一緒に作ったものだったから。


思い出した。


全部全部思い出した。


それはそうと、


海夏人の居場所はあの少女の後ろにある蔵の中。


私も昔、誰かと遊んだ記憶が..


誰だかは覚えていないけど。


ふと辺りを見回す。


さっきから何だか静かすぎる。


そう思ったからだ。


だが、気づいた時にはみんな居なかった。


影を踏まれてしまったのだろうか。


『私も影を踏まれないようにしなきゃ』


そう思いながら自分の影を見る。


が、そこには影など無く、


あるのはただの地面だった。


【やっと気づいたの?自分の影が無いことに】


少し笑いながらそう言う幼い頃の私。


「なんで私だけ?」


そう私が独り言のように呟くと


【...忘れてるのが悪いでしょ】


そう捨て台詞のように言った後、


幼い頃の私は姿を消した。

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