15. エピローグ


 夏。蝉時雨が降りしきり、同時に強烈な日光も降り注ぐ人体に優しくない季節。


「懐かしいな」


 校門を抜け職員室に行く。

 見慣れない廊下を通り、すれ違う生徒から好奇の目を向けられ、苦笑しながら歩く。

 窓ガラスの並ぶ廊下は夏の日差しで満たされ、最低限フォーマルを整えてきた俺には厳しかった。


 職員室で挨拶をし、見慣れた気の毒そうな眼差しに再び苦笑する。


 客証と鍵を受け取り、そそくさと息の詰まる部屋を出た。

 俺は朝崎火花、二年間の昏睡……ではないか。起眠時夢行症患者暮らしを経て目覚めた高校二年生だ。……実質留年生である。


 廊下を歩きながら、目覚めた直後のことを思い出す。


『――自分が誰だかわかりますカ?』


 目覚め、落ち着き、最初に投げかけられた質問がこれだった。

 俺が誰か。俺が何をしていたか。そんなことばかり。スッキリした気分で現実を受け入れられていて、寝る前まで抱えていたもやもやは綺麗さっぱりなくなっていた。


 二年間も治療に費やしたという事実はさすがにショックだったが、過ぎたものは過ぎたと受け入れリハビリに取り掛かった。夢見中に動いていたとはいえ、寝ている時間の多い生活だ。それはもう筋肉の鈍りがひどかった。


 肉体を整え、心の調子も良いと判断を受け、外出を許されたのがほんの数日前のこと。


 両親が死んだ後の色々は親戚が済ませており、数人の親戚とも顔を合わせた。皆、普通に良い人たちだった。今後のことはいったん保留にし、俺は病院のある街から生まれ故郷に帰ってきた。そして今に繋がる。


「……高校生活は、もう終わったんだもんなぁ」


 呟き、笑ってしまう。実感がなかった。嘘みたいだ。休学扱いだったので復学は可能だが……それも保留させてもらった。

 何より先に、確認しなければならないことがあったから。


「……はぁ」


 階段を昇り、鍵の開いていた戸を押す。ぶわりと、夏の熱気と蒸し暑くも爽やかな風が体をすり抜けていく。


「――――」


 人が立っていた。

 屋上の中心より外れた日陰。日射を避けて涼みながら、耳にイヤホンをはめている女性。


 長い髪を後頭部で一つ結びにし、両頬から胸元まで髪の房を垂らしている。どこか紫がかった暗い赤茶色の髪は、屋上に吹く夏風で柔らかく揺れていた。


 じっとどこか遠くを見据える瞳は淡い紫色。幻想的で、人間離れしていて。俺はただ、綺麗だと思った。


 美女は物音に気づき顔を上げる。こちらを見て、超然とした笑みを――。


「火花君!!!!!!」


 ぱぁぁっと、これでもかというほど満面の笑みを浮かべ走ってくる。駆ける美女の笑顔に、抑えようのない衝動が湧き上がる。


「紫衣さんっ!!!」


 叫んで、こちらから迎え入れるように彼女を抱きしめた。柔らかく、女性的で。それでいて俺より小さい……大人のようで子供な、俺の恋人・・


「ん……痛いですよ、火花君」

「すみません……もうちょっとだけ」


 紫衣さんは「仕方ない火花君ですね」と、身を任せてくれた。

 彼女の存在を全身で感じ、目元の熱さが引くまで、心の震えがなくなるまで、情動が収まるまで、そのままでいさせてもらった。


 俺は、朝崎火花。二年間の病院生活の最中、夢の中でカボス部という謎の部活に入って紆余曲折あり目の前の治療担当――カウンセラーと恋仲になった、休学中の高校二年生である。





『――つまり、どういうことだ……?』

『なるほド。さては火花、馬鹿ですネ』

『おま……マジで夢と一切変わらないじゃねえか』

『そう言う火花は無駄に背だけ伸びて痩せましたネ』

『……オーケー、続けてくれ』

『はイ』


 半年ちょっと前。カボス部学園生活より目覚めた俺を待ち受けていたのは、至って変化のないモドだった。

 この人形アンドロイド、治療プログラム途中参加なのに俺への良影響が過ぎるということで重宝されていたらしい。そしてもう一人。


『え、えへへ。先輩、おはようございます』

『……なんかでかくね?』

『えと、もう先輩よりお姉さんになりましたから』


 色々と成長して美少女と美人の間に位置してそうな小冬がいた。

 俺も少しは背が伸び、さらに結構痩せていたのだが……二年間の記憶の有無は結構違うらしい。一応夢の世界で話は聞いていたので、理解自体は容易かった。……二年も経ってるのはちょっと予想外だったが。


『火花、紫衣を救ったのはあなたでス。そして完全とは言えずとモ、あなたを救ったのはあなた自身でス』


 一番気になっていたことを最速て伝えてくれたのはモドだった。さすが俺の相談役である。

 そう、紫衣さんは助かった。助けられた。救助案を出したのは俺だが、現実の説得は小冬とその母。実行は治療プログラムの責任者とかなんとか。

 モドは俺が救ったと言うが、皆で救ったようなものだ。


『火花の体を使う策は妙案でしたネ』


 そう言って、モドは俺を褒め撫でてくれた。


 夢世界で小冬から説明を受けて知ったが、言ってしまえば俺も紫衣さんも仮想世界のデータの集まりだったわけだ。そりゃ治療が終われば消滅するし、ノイズやら読心やらも存在する。俺は気づかなかったが、普通にトラウマ再発阻止で催眠や思考誘導までされていたらしい。俺、馬鹿か?馬鹿だったわ。


 なんにせよ、紫衣さんに「同じ」と言われるのも仕方ないくらい本当に同じだった。


 ただし、俺の夢を媒体に世界を構築しているので、俺の肉体だけはちょっと特別だった。意識自体は消滅して消えるが、肉体は残る。だからそこに紫衣さんの記憶情報を入れて保管した。


 空っぽの俺の体を外付けドライブにした形だ。結果は成功。紫衣さんは紫衣さんのまま、現実世界にやってこられた。まあその過程のアレコレは小冬と開発者の人たちによる「愛は世界を超える」的な、朝崎火花赤裸々劇場を公開して上手くやったらしい。

 知らないところで俺の青春がさらし者にされていた……紫衣さんのためだからいい。耐えよう。これも大人になる一歩である。


 そして俺自身。

 これはなんというか……厳密に言えば、今の俺は"カボス部の俺"、ではない。

 全部の記憶は取り戻せなかった。仮想人格のデータ自体はモドが回収しておいてくれたので、目覚めた俺にぶち込んで追体験させて完了だった。ただ、それは紫衣さんの場合と大きく異なる。俺にはリアルの俺がいたので、空っぽの器に入れるのとでは訳が違った。


 モドや紫衣さんが、治療プログラムの一環として俺の過去を追体験した時のソレと同じようなものだ。完全な同一人物にはならない……成れない。

 やはり、過去と自我を持つ俺が"カボス部の俺"を見て聞いて共感しても、完全完璧にそのままでは在れなかった。状況的には"追体験"と言うより"映画体験"に近いか。


 俺自身は超リアルな映画を見たような感覚に陥った……らしい。何故"らしい"のかと言うと。


「? ふふふふー、火花君。私に見惚れていますねー?」

「……好きです」

「なにゅをっ……うぅ、いはいです。噛みましたぁ」

「噛んでる紫衣さんも大好きです」

「うぅ……私もひばなくん、しゅきです」


 ちょっと舌っ足らずに言う紫衣さんが超可愛い。

 涙目のお子様紫衣さんを撫でてあげながら、もう一度思い返す。


『火花、あなたがリアルへフィードバックさせた感情はただ二つだけでス。ですがその二つガ、カボス部員のあなたのすべてでもありましタ。よくやりましたネ。やはり火花、あなたは馬鹿みたいに突き進むことが一番の取り柄でス』


 モドは饒舌に語り、ニッコリ笑ってベッド上の俺を撫でた。


 何故俺が、違和感なく"映画"を自分事として受け入れられたのか。

 それは"俺"が強烈に鮮烈に、これまでの過去すべてを塗り替えるほど熱く輝く感情を抱き続けたからだと言う。


 わかりやすく言えば、俺は"俺"の『紫衣さんが超超超大好きだーー!!』という感情と『カボス部は世界一だぜーー!!』という感情に呑まれて、「確かにこんな想いはあるし、カボス部でマジで過ごしてたかもな……」と思ってしまった。


 朧げだった思い出は映画で補強され、感情で「自分のもの」とされ、気づけば夢の中の"俺"と大差なくなっていた。小さな差異は色々あるだろうが……大事なのは紫衣さんへの恋とカボス部への愛。モドの言ったように、二つの感情だけが"カボス部の俺"のすべてだったのだ。 


 皆が皆、奇跡だと、こんな例はないと、愛の勝利だ!と叫んでいたとかいないとか。何にせよ。


「愛は無敵、って話だよな……」

「?? 何のお話ですか?」

「愛は世界を超えるって話です」

「あぁ、ふふっ、そうですね。私への愛がたっぷりでしたもんね!」

「そっすね」


 返事が雑! と抗議してくる紫衣さんとじゃれる。

 数分か十数分か。そろそろ熱中症にでもなりそうだったので、懐かしい屋上を離れもう一つの目的地へ。


「火花君。プレハブ棟、なくなっちゃったの知っていました?」

「一応小冬から聞いてました。……見たらちょっとショックでしたけど」

「はい。私もです。カボス部も、火花君とイチャイチャした廊下も……全部消えちゃいました」

「……いや、あれ。そんな記憶ありました?」

「そんな……」

「す、すみません……俺が忘れてるだけか。本当すみません」

「冗談ですよ」

「……抱きしめますよ?」

「だ、だからもう抱きしめた後じゃないですか!……うぅ、幸せです……」


 廊下でイチャイチャした記憶なら今作った。

 遠くから生徒が歩いてきたので、急いで離れさせてもらう。危ない。ここは現実世界だった。夢だと碌に人間がいなかったからな。俺は馬鹿だから気づかなかったけど、他の人間はほぼ機械的な動きしかしていなかったらしい。……それに気づかないって、マジで俺馬鹿じゃん。悲しいよ。


「大丈夫ですっ。火花君は火花君というだけで、私の大好きな男の子ですから!」

「……もう読心の能力消えてますよね?」

「うふふふ」

「……深く聞くのはやめておきますね」


 淑やかに微笑む紫衣さんから目を逸らし、新校舎……既に旧はないので、本校舎か。未だ新品の気配が残る校舎を歩く。

 なんでもない会話に頬を緩め、人目がなければ手を繋ぎ、ドキドキしながらこっそりキスまでして。付き合いたての学生か!ってくらい……事実付き合いたてだし学生だし、しょうがないな。俺たち。


 自己弁護はそれなりに、目的の教室にたどり着く。閉まっている扉の鍵を開け、息を吸う。

 隣の紫衣さんと目を合わせ、微笑み頷き、二人一緒にドアを開けた。


「――先輩! 紫衣さん!」

「――遅いでス、待ちくたびれましたヨ」


 空き教室。モノを動かし、どこか見覚えのある配置にセットされた机と椅子。窓からはカーテン越しに真夏の日差しが入り込み、よく効いた冷房はいつかの景色を思い起こさせる。


「ふふー! おまたせしました! カウンセリングティーチャーの紫衣・ミシェラが到着です!」

「そんな職業はありませン」

「そ、そうですよね。一瞬、あれ?って思っちゃいましたっ」


 紫衣さんが先に入って、いつもの席に座る。部屋の奥側の、窓に近い場所。お誕生日席。

 黒の髪に淡い紺色の瞳をした、少女と言うには大人びている小冬は教室入口から右奥。その反対に空いた椅子。

 全身銀色の、ちんまりとしたお人形のような可愛いアンドロイドは小冬側、ではなく今日は空き椅子側に居た。


「火花、泣いていないで早く座ってくださイ。ずっと待っていたんですヨ」

「せ、先輩。泣いているなら……その、私の胸、貸しましょうか?」

「どさくさに紛れて私の彼氏君を誘惑しないでください! 火花君! 泣くなら私の胸で!」


 騒がしい三人が懐かしくて、嬉しくて。本当の意味で記憶には残っていないのに、涙は止まってくれなかった。


「ははは! 皆、わざわざ来てくれてありがとう!!!」


 走って、勢いよく椅子に座って、まだ潤む目を拭って笑う。感謝しかない。本当に、カボス部は世界一だ。


「? ふム。やはり火花は馬鹿ですネ」

「うふふ、お馬鹿な火花君も大好きですよ」

「えへへ。先輩、先輩のままですねっ」

「な、なんだよ……」


 無表情のモドと、幸せそうな紫衣さんと、微笑む小冬と。

 よくわからない言葉の波に戸惑う。


 今日の集まりは俺の願いの結果だ。

 夢の中で「もう一度部室に集まろうぜ!」と約束した。俺以外はプレハブ校舎が取り壊されたことを知っていたらしいが……知っていても、笑顔で頷いてくれたのだ。

 目覚め、校舎がないことを知った。でも部活はしたかった。どうしてももう一度、カボス部で教室に集まりたかったから。だから……小冬とモドと紫衣さんにお願いした。


 そうして、今に至る。

 渦巻く心を整理しようと深く呼吸し、机の上のモノに気づく。


「なんだこれ。……そふくり……?」

「え、えへへ。珍しい飲み物、ですっ!」


 手に取り、缶の下に紙を見つける。紙、というか便箋だった。それも三枚。


「手紙?」

「えと、みんなで書いたんです」

「私も書いたんですよー!」

「私も書きましタ」


 皆が俺のために手紙を書いてくれたらしい。読もうとしたら「後で後で!」と紫衣さんに止められてしまった。しょうがない。後で読もう。でもどうして謎のソフトクリームみたいな缶に手紙を……。



『じゃ、じゃあえっと、私はお二人のところに珍しい飲み物を置きますっ』

『ふふ、楽しみにしておきますね』

『中に手紙沈めたりしなくていいからな』



 ふ、と記憶が過る。

 まだモドがいなかった頃の夏、"俺"が体験したこと。今の俺は覚えているだけで、その時の感情は曖昧だ。でもどうせ"俺"のことだから、青春に憧れて自分には無理だとか捻くれたことを考えていたのだろう。


 軽く苦笑し小冬を見る。嬉しそうに笑う彼女は、あの時のことをしっかりと覚えていたようだ。俺は忘れても、小冬は忘れなかった。約束とも言えない会話を忘れず、今に繋げてくれた。


「……ありがとな」

「? 先輩? 何か言いました?」

「いいや何も。そふくり?か? うまそうだなと思って。甘党の俺には最高じゃねえか。さすが良くできた後輩だぜ。ありがとな」

「え、えへへぇ、はいっ! 私は良くできた後輩ですっ!」


 こみ上げてくる感謝と感動を胸の内にしまい込む。そふくりを開け、甘ったるいそれを喉に流す。今の俺の心に負けないくらい、濃厚で胸に染みる甘さだった。

 スイーツの甘さで胸を満たしていると。


「火花」

「うぉっ、な、なんだよ」


 背中に感触。腕を引っ張られたので立ち上がって避ける。が、そのまま普通に背中を占拠されてしまった。俺の肩に懐かしい重み。


「ふぅ……ここは落ち着きまス」

「モド?」

「約束でス」

「約束……あ」


 リアルで会ったら、また運ぶと、背負うと約束した。忙しくて叶えられていなかった約束だ。


「ふふ、火花。あなたの背中は私のものでス」

「モドのものじゃ」

「私のものですよ!!!?」


 俺の台詞を遮り叫ぶ紫衣さんに、「実は私のものかも、しれません……!」と便乗する小冬。モドもモドで「ご褒美に頬をくっつけてあげましょウ」とやけに嬉しそうな声で言ってくるものだから、紫衣さんがプンスカしてしまう。


 賑やかで、騒々しく。

 そこにいるだけで楽しくて嬉しくてしょうがなくなるような、そんな空間。


「でハ、火花の背中を賭けてじゃんけんしましょウ」

「ふふーん、いいですよ? 私が勝ちます!」

「――これは天命かもしれないです。先輩の背中を、私が奪えと言うっ」

「火花も参加してくださイ」

「俺もか? 俺が勝ったらどうなるんだよ」

「「「それは……」」」


 三人は顔を見合わせ、順番に言う。


「おんぶの権利をあげましょう!」

「な、なんでもしてあげる券をあげます、からっ」

「私を抱っこする権利をあげますヨ」

「恋人の紫衣さんが一番健全ってどういうことだよ……」

「ほ、本当にですよー!!!」



 いつか見た映画では、人とアンドロイド、二人だけで物語が完結していた。別離で終わる、美しく切ないビターエンド。一時は、俺と紫衣さんもそうなるんじゃないかと思った。それでもいいかとさえ思った。



「――」



 ちらと、紫衣さんが微笑んで視線を寄越す。淡い紫の瞳は俺を見つめ、通り抜けて小冬とモドに移る。俺の恋人は綺麗で可愛い、子供みたいに楽しげな笑みを浮かべていた。



「ははっ」



 現実は映画と違う。もっと上手くいかないかもしれないし、もっと苦しく辛いものかもしれない。でもそこは"現実"だから、エンディングだって俺たちの手で変えられる。

 ビターエンドを受け入れず跳ね除けたから、夢を抜け出した"今"、俺は紫衣さんと小冬とモドと、カボス部全員で笑っていられる。言うまでもなくこれは、俺の大好きなハッピーエンドだ。



「火花、私が勝ちましたのデ、早くおんぶワークを再開してくださイ」

「なんだよおんぶワークって。初めて聞いたぞ」

「ちょ、ちょっと待ってください!! 敗者復活戦で私が勝ちましたよ!! モドちゃんもう一回勝負です!」

「うぅ、先輩……私、ビリです。慰めてください……」

「わ、私の火花君は押しに弱いんですからそんな縋りついちゃだめです! というか小冬ちゃん! もう火花君より年上のお姉さんですよね!?」

「え、えっと……私は永遠に火花先輩の後輩です!」

「火花、抱っことおんブ、どちらが良いのでしょうカ。新規開拓が必要でス。抱っこチャレンジをしましょウ」

「はは、あははっ!!! なんでもいいから早くじゃんけん終わらせようぜ! 俺まだやってないから混ぜてくれ!!」



 カボス部の日常は続く。

 部室がなくなっても、関係が変化しても。失って、取り戻して、元通りにはならなくても。ひだまりの中で、変わらずに続いていく。



 ――♪



「ちょっと遅れたけど……始まりにはこれがふさわしいかと思ってさ」

「わぁ! うふふっ、火花君! 私と火花君の愛の歌ですね!!」

「カボス部のための歌でもあります、よ?」

「やはり良い歌でス」

「へへ、ありがとう」

「私のための新曲はまだですカ?」

「まだだよ。ていうか今ここでそれ言うと……」

「わ、私のための曲もお願い、しますっ」

「私も! もう一曲ほしいです! 今度はラブたくさんのミラクルラブソングがいいです!!」

「……な?」

「三曲ですネ。頑張ってくださイ」

「全投げかよ!?」

「私は、えと……甘酸っぱい、恋愛ソングがいいなぁ、なんて」

「リクエストは受け付けてないからな!」

「うふふふ、あはっ、楽しいですね! 火花君!モドちゃん!小冬ちゃん!」

「えへ、えへへ、はいっ!」

「はイ。とてモ」

「そっすね。ほんと……本当、めちゃくちゃに超楽しいですよ!!」



 笑顔三つに、俺自身を足して。

 四つ分の小さな光が瞬きながら駆けていく。ままならない世界を、泣いて笑って、手を取り合って生きていく。



 長い生を、大人になろうと藻掻いて足掻いて子供のままに。

 花火みたいに、火花みたいに永遠を刻んで流れ続ける。



 眩いきらめきの形は、まさにスパークスアワーそのものだった。




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