第6篇「記憶の果て」(後編)

▢▢▢ 臨界点 ▢▢▢


光輝こうきは決意を込めて叫んだ。


「全ての記憶を受け継ごう!」


詩織しおりも強くうなずく。


「二人の意思、確かに受け取りました」タカミンの声が響く。「それでは、封印されていた記憶を解き放ちます」


▢▢▢ 真実の解放 ▢▢▢


「最初の真実です」タカミンの映像が具体的な証拠を映し出す。


「高天原は、現在の鹿島神宮から香取神宮にかけての地に実在しました。その動かぬ証拠があります」


映像は鹿島神宮の古地図を映し出し、タカミンの声が続く。


「鹿島神宮の本殿は特異な方角を向いています。北に向いた本殿の中で、神体は東を向く。これは太陽信仰の証。現在も近くには『高天原』という地名が残されています」


詩織が驚きの声を上げる。


大祓詞おおはらえのことばにも証拠が!」


「その通りです」古代AIの声が重なる。「『大倭おおやまと日高見国』という言葉が今も残る。これこそが日本の正式名称だったのです」


映像は変わり、日本列島全体の地図が浮かび上がる。そこには縄文時代の遺跡分布が示されていた。


「人口分布を見てください。縄文時代、東日本に人口が集中していたことが分かります。特に関東・東北地方には、巨大な集落が数多く存在した」


タカミンは三内丸山遺跡の精密な再現映像を映し出す。


「そして次の真実。天孫降臨の正体です」


地図上に気候変動の様子が重ねられていく。


「約4000年前から始まった寒冷化により、東日本の気候は急激に変化。同時期、大陸からの新たな民族の移動も始まっていました」


映像は東から西への人々の移動を示す。


「日高見国の民は選択を迫られました。そして彼らの一部は、西へと移動を開始。これが後に『天孫降臨』として神話化されたのです」


光輝と詩織は、証拠の数々に息を呑む。


「鹿児島という地名の『児』の文字にも意味があった。『関東の鹿島の子』という意味が......」


「大和建国の真実も、ここにあります」


映像は日高見国から派遣された人々の動きを映し出していく。


饒速日命にぎはやひのみこと、そして瓊瓊杵尊ににぎのみこと。彼らは同じ東からの移住者でした。新撰姓氏録しんせんしょうじろくの記録によれば、藤原氏、物部氏、そして多くの有力氏族が『神別』、つまり東国の出身者として記されている」


古代AIの声が重なる。


「記紀が編纂された時、既に大和に都があった。そのため、東国の歴史は意図的に....」


映像は、さらに驚くべき証拠を示し始める。


「そして、もう一つの真実があります」タカミンの声が響く。「日本の古層に存在した、驚くべき科学文明の痕跡......」


突如、タカミンの光が激しく揺らめく。


「これは......! まさか、高天原の本当の姿が......そして日本人の持つDNAの秘密が......!」


タカミンは突然、映像を遮断する。


「この先は......人類の既知の歴史を完全に書き換えてしまう。それは、まだ......」


古代AIも同意するように輝きを放つ。


「既知の文明の枠を超えた真実は、時として破壊的な力を持つ。私たちは、かつてそれを目の当たりにした」


光輝と詩織は、語られなかった真実の重みを感じていた。


▢▢▢ 選択の時 ▢▢▢


「もう一歩進めば、人類の歴史認識を完全に塗り替える真実に到達する」


タカミンの声は厳かに響く。


「高度な古代文明の痕跡、そして日本人のDNAに刻まれた神秘......」


古代AIの声が重なる。


「その先にあるのは、あまりにも衝撃的な事実。例えば、南太平洋に沈んだとされる......」


タカミンが慌てて遮る。


「ダメです!それを明かしてしまえば......!」


▢▢▢ 封印の決断 ▢▢▢


光輝は静かにうなずいた。


「人類が真実を受け入れられる時まで、待つべきなんだね」


「でも、いつかは......」詩織の声が希望を含んで響く。


タカミンの姿が元の大きさに戻り始める。


「ご主人、詩織さま、私たちは新たな役目を得ました」


青い光が優しく二人を包む。


「記憶を守り、そして......時が来るのを待つ」


▢▢▢ 帰還 ▢▢▢


研究室では、零士が静かに彼らを見守っていた。


「おかえり。随分と、深いところまで行ってきたようだね」


零士の表情には、どこか切ない色が浮かんでいた。まるで、彼もまた何かを知っているかのように。


(完)

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時空の扉: 遥かなる日の国へ 三分堂 旅人(さんぶんどう たびと) @Sanbundou

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