第1篇: 遥かなる旅路(中編)

第1篇: 遥かなる旅路はるかなるたびじ(中編)



▢▢▢ 移動民族との出会い ▢▢▢



草原の向こうから、人影が近づいてくる。


獣皮けがわをまとい、手には磨き上げられた槍。風になびく長い髪に、健康的な褐色かっしょくの肌。それは紛れもなく、この時代を生きる人々の姿だった。


「光輝、詩織、危険値は低め」タカミンが青く波打ちながらささやく。「でも、こちらの服装があまりにも異質すぎて、警戒されるかも」



緊張が走る空気の中、光輝はゆっくりと両手を上げた。


「タカミン、言葉は分かる?」


「任せて!」タカミンのホログラム体が青く明滅めいめつする。「言語解析モジュール起動中...古代言語データベースと照合...言語パターン特定、OK!95.7%の精度で通訳できるよ!」



彼らの中から一人の青年が前に出る。りんとした眼差しと、引き締まった体躯たいく。その立ち姿には、自然と共に生きる者だけが持つ威厳いげんが漂っていた。


「何者だ?」


低く響く声に、タカミンが即座に翻訳を始める。その声は、不思議と周囲の空気に溶け込むように自然だった。


詩織が一歩前に出た。「私たちは、遠い地からの旅人です」


その声には、不思議な説得力があった。



▢▢▢ 集落での試練 ▢▢▢



夕暮れが近づく頃、一行は集落に辿り着いた。


かすかに残る日差しの下、炉の火が柔らかな光を投げかける。獣皮で作られた住まいの前では、子供たちが無邪気に駆け回り、老人たちが穏やかな笑みを浮かべて見守っていた。


「ねぇ、光輝」タカミンが小声で言う。「この集落のレイアウト、狩猟採集民族の典型的なパターンと一致するよ。しかも、道具の製作技術がすごく高度!」



「私たちはこの土地と共に生きる一族。」


青年カナメ《かなめ》の言葉には、誇りと覚悟が込められていた。


「だが、よそ者をそう簡単には信じられぬ。お前たちにも、試練を乗り越えてもらわねばならない」



「試練?」


光輝の問いに、カナメは遠くの山を指差した。


「あの山の頂に、いにしえの石がある。我らの祖先が残したという。それを持ち帰れるか」


タカミンが急いでデータを表示する。「その山、かなり険しいよ。でも...何か強い波動を感知してる。羅針盤と似た周波数!」


その言葉に、詩織は光輝の表情をうかがった。


「行くしかないね」


光輝の瞳に、決意の色が宿る。



▢▢▢ 星辰せいしんの羅針盤の導き ▢▢▢



朝靄あさもやの立ち込める中、二人は山の斜面を登っていった。


手にした星辰の羅針盤が、不思議な輝きを放っている。まるで天体の運行を映し出すかのような光の軌跡が、二人の進むべき道を指し示していた。


「気温18度、湿度72%...」タカミンが淡い青色の光を放ちながら周囲を分析していく。「天候は安定してるけど、この先は要注意だよ」



「光輝、ちょっと」


詩織の声に、二人の足が止まる。


地面には、ひときわ大きな足跡が刻まれていた。爪の跡は鋭く、この時代の野生の厳しさを物語っていた。


「熊、だろうか…」


「間違いないです」タカミンが足跡をスキャンしながら答える。「しかも、体重800kg以上の成獣。現代のヒグマとは比べものにならない大きさ」



言葉が途切れた瞬間、低いうなり声が木々の間から響いてきた。


振り返った先には、直立した巨大な棕熊ひぐまの姿。


「気をつけて!」タカミンの声が震える。「通常の対応パターンが適用できません!」


「詩織!」


光輝は咄嗟とっさに詩織をかばい、羅針盤を掲げた。


その瞬間、羅針盤から放たれた光が、熊の目を捉えた。


獣は一瞬動きを止め、やがてゆっくりと身をひるがえすと、森の奥深くへと消えていった。



「今の...」


「うん、これが羅針盤の本当の力なのかもしれない」


二人の視線が交差する中、タカミンが青く明滅しながらつぶやいた。


「不思議だね。この羅針盤、まるで意思を持ってるみたい。でも、その仮説を立証するためのデータが足りないよ...」



▢▢▢ 次回予告 ▢▢▢



古の大地に隠された謎。

移動民族が守り続けてきた秘密。

そして、星辰の羅針盤が指し示す、意外な真実——。


次回、「遥かなる旅路(後編)」、光輝たちの前に、驚くべき運命の糸がつむがれる。

新たなる冒険の幕開けを、見逃すな!

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