時空の扉: 遥かなる日の国へ

三分堂 旅人(さんぶんどう たびと)

第1篇: 遥かなる旅路(前編)

▢▢▢ 謎の遺跡発掘 ▢▢▢



真夏を思わせる陽炎かげろうが立ち昇る岩宿いわじゅく遺跡。土の香りに混じって、どこからともなく漂ういにしえの記憶。発掘現場で汗を流す天乃光輝あまのこうきは、その手に握るスコップに、今日もどこか特別な感触を覚えていた。


傍らで作業を続ける日向詩織ひゅうがしおりの手が、ふと止まる。「ねぇ、光輝。この地層、何か変じゃない?」


光輝は詩織の声に、手元の土を見つめ直した。幾重にも重なる地層の断面に、確かな違和感が潜んでいる。「ここの色の変化、まるで…」言葉を探しながら、彼は慎重に筆を走らせた。


「まるで、何かを隠すように積み重ねられているみたいね」


詩織の眼差しが、光輝の手元を追う。環境考古学という新しい領域を切り開いてきた彼女の直感は、いつも鋭かった。



光輝の脳裏に、祖父の最期の言葉がよみがえる。「光輝よ、この国の地の底には、まだ誰も見たことのない真実が眠っているのじゃ」。震える手で古い巻物を差し出した祖父の表情が、今でも鮮明に思い出せる。



二人で慎重に土を取り除いていくと、次第にその輪郭が姿を現した。青銅とも水晶ともつかない、不思議な光沢を放つ物体。表面には幾何学模様が精緻せいちに刻まれ、中心には半透明の結晶が埋め込まれている。


「これは…」


光輝の声が途切れた瞬間、結晶がかすかに輝きを放ち始めた。



▢▢▢ 「時空の鍵」との遭遇 ▢▢▢



薄明うすあかりが、まるで息をするように明滅めいめつする。詩織が測定器を取り出そうとした時、光輝のポケットの中で何かが反応した。


それは親友の雨宮零士あめみやれいじから託された最新鋭AIデバイス。光輝が忘れかけていたそれが、今、確かな存在感を放っている。


デバイスから現れたのは、子供のような愛らしい姿のホログラム。半透明の青い光をまといながら、無数のデータパネルを展開していく。


「解析を開始するね!」ホログラムの瞳が青く輝く。「えっと、私は知能統合システム・タカミムスヒ。遺物の調査をサポートするために、零士さんが開発したAIだよ」


「タカミムスヒ...」詩織が首を傾げる。「ちょっと呼びづらいわね。タカミンって呼んでもいい?」


「わぁ!」ホログラムは嬉しそうに宙返りした。「それ、すっごく可愛い!気に入った!」


光輝は思わず笑みを浮かべた。「じゃあ、タカミン。この遺物について何か分かるかい?」


「うん!」タカミンは真剣な表情に戻り、遺物の周りを飛び回りながら青いスキャン光線を放つ。「これはすごいよ!とても古いけど、まだ活性反応がある。未来と過去をつなぐエネルギーパターンを検出!通常の遺物とは全く異なる時空間波動を感知しています」


データ解析に没頭するタカミンの姿を見て、詩織は小さく微笑んだ。「意外と真面目なのね」


「科学的な解析は得意分野なんです!」タカミンは得意げに胸を張る。「でも、この遺物からの反応は、既存のどのパターンとも一致しない。まるで...」



その言葉が途切れた瞬間、遺物が強い光を放ち始めた。地面に不思議な模様が浮かび上がり、光輝と詩織の足元を、渦を巻くような光の帯が取り囲んでいく。


「詩織!」


光輝が咄嗟とっさに詩織の手を掴んだ時、世界が光に包まれた。



▢▢▢ 未知との遭遇 ▢▢▢



目覚めた瞬間、二人の息が止まった。

眼前に広がる世界は、あまりにも鮮やかすぎた。



空は、かつて見たこともないほどの深い青。地平の果てまで伸びる原生林は、悠久ようきゅうの時を刻むように静かにそびえ立っている。風に揺れる草の葉が奏でる音色、遥か彼方から響く獣の咆哮ほうこう——それは教科書の中でしか知らなかった、太古の息吹そのものだった。


「まるで、夢を見ているみたい…」


詩織の囁きが、澄んだ空気に溶けていく。



光輝は無言で地面に手を伸ばした。土の感触が、確かな現実を告げている。彼の指先が何かに触れる。「これを見て」


土に埋もれた石器を取り出しながら、光輝の声が震えた。「間違いない。旧石器時代の技法だ」


青く輝きながらタカミンが浮遊する。「計測データ、異常なしです!でも、信じられないよ...この大気組成、放射線量、すべてが約3万年前の値と一致してる!」


「私たち、本当に過去にきてしまったのね…」


詩織の声には、不安と興奮が混じっていた。



▢▢▢ 次回予告 ▢▢▢



遥か古代へと導かれた光輝と詩織。

そこで出会う移動民族との緊張の対面、

そして待ち受ける予期せぬ試練——。


次回、「遥かなる旅路(中編)」、さらなる謎が彼らを待ち受ける!

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