第7話  恐怖の化身

レオはボロボロのジョンを背負い、森の中の大地を進んでいく。

その姿はまるでその2人の姿はかの兄弟のようだ、レオは自分が他人を背負うことになったことに奇妙な因果を感じていた。

ひとしきり談笑していると、ジョンが疑問をぶつけた。


「なぁなんでレオはエクソシストになったんだ?」

優しい風が1週間以上洗っていない炭で黒ずんだ髪と少し鉄臭い赤い髪を洗う。

すると、レオは少し考えてこう言った。


「正直自分でも分からない、人を助けたいからとか、自分と家族を陥れた魔人に復讐したいからってわけでもない気がする。 

でも同時になんで親方が殺されないといけなかったのかっていう疑問がハッキリとあるんだ

オレはその疑問をハッキリさせたいんだと思う。」


レオは少し俯き、ボヤくようにそう言った。


「魔人と話すだって?できるわけがない!お前なんか聞く前にすぐに殺されるのがオチだ!しかも理由が「分からない」だって?そんな気持ちでこんな危険なことやってんのかよ!?」


ジョンはレオの言葉に驚きを隠せないままに

やや怒気を纏った声で言った。


「なんてこった、オレはよりによってこんなあやふやな奴と手を組んじまったのか!」


レオはジョンの急な変化に戸惑い、しかしそんなジョンを落ち着かせる術を知らず、ジョンが何に怒っているのかレオには理解できず、縮こまることしか出来なかった。


「ジョンどうし…」


「ふざけるな!オレがどんな思いをして生きてきたのか!どんな気持ちでみんなを裏切ったのか!分かっているのか!」


ジョンは思わず叫んだ、その様子はまるで暴走列車のようで自分でも信じられないと言わんばかりだった。


「ネズミに追われてる時…孤児達がネズミに襲われてただろ…

あの中には知ってる頭が何人もいた…

フェデリコ、シンデラ、ネルコ…

勿論初めてじゃない俺たち孤児はゴミのように毎日扱われ、それに耐えきれなかった奴らなんか何人も居た

みんな何が起こったかも、なんで死ななければならなかったかもわからず死んでいったんだ。

それじゃあアイツらが可哀想じゃないか…

誰も自分を想ってくれない!

どこにも自分という存在を残されない!

残ったのはただいずれ誰かに片付けられてしまう魂のない死体だけ!

死んだら人は消えるんだ!

誰の頭からも!どこからでも!

だから俺はアイツらの死に意味を創らないといけないんだ!

「お前が死んだおかげでオレはここまでのし上がれたぞ!」ってアイツらを笑ってやらないといけないんだよ!

こんな年まで生きてしまったクソッタレなオレは生きて、生きて生きて、生きて生きて生きて!

生きた責任を果たさないといけないんだ!」


ジョンはそう言って、そっぽを向いてしまった。


レオとジョンの間に気まずい雰囲気が流れる


「あ〜あ、だめじゃないかジョン君〜。ま、キミに隠し事は無理だと思っていましたけどね」


背後から優しい男性の声が聞こえる

レオにはその声に心当たりがあった

シビュラ神父のように慈愛に満ちているようで、どこか含みを感じるそんな声…

そんな声は普段なら孤児たちを安心させる為の声なのだろうが彼らにとっては違った

瞬間レオとジョンは背後に感じたのは、

決して抗うことのできない絶対的恐怖だった

そしてそれはレオには見覚えがあった

そう、クライ院長だ。


あの夜、

額に刻まれた横一文字が疼き、レオの体が微細に震える

恐怖はやがて形を帯び、大きなネズミの形を手に入れた

その恐怖は容易にすぐ後ろにいる存在が魔人であることを二人に悟らせた


あまりの恐怖に後ろを向けずいる二人の肩に手を背後の男がぎゅっとつかみ、顔を少しずつ近づけてくる


(怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い)


レオの頭の中は一瞬にして恐怖に染まり、まともな思考はおろかこんな状況に飛び込んでしまった自分を呪う言葉がレオの頭をグルグル回る

駅に駆けつけた警察の侮蔑、野次馬達の同情や冷たい目が頭を駆け巡り、無力な自分を肯定する


2人の肩に置かれた大きな手は2人の肩を伝い、喉元に凶爪が突き立てられる


「さて、分かっているな?ジョン、君は私の邪魔をしてしまった…」


「レオ!」

たまらずジョンはレオの背中を叩き、叫ぶ。

しかし、


動かない


レオはまだ齢12の子供、様々な差別や人の醜さに触れてきた少年でも二度目の死の恐怖には打ち勝てなかったのだ


魔人の爪は鋭く光り、喉に大きな谷ができる


「レ゙ォ゙うごげぇ!」


ジョンは涙目になりながらレオに必死に叫ぶ


「契約違反だ。」


クライ院長が2人の喉元を爪で切り裂こうとした



その時だった


レオは指先で右足のレバーを下ろし、右足のジェットを作動させ、即座に全身を前回転させ、

左足でクライ院長の下顎を蹴り上げた。

クライ院長は少しよろめき、驚いたような顔をしている。


「レオ?!」

同じく驚愕を隠せない顔をしたジョンはレオの顔を見やる

すると、レオは背中に乗せたジョンを邪魔なものを落とすように振り落とした。

「イテテテ…ハッ!」

瞬間、ジョンは見た

レオの背中から現れた黒い霧がクライ院長が発していたネズミの形をした恐怖を打ち消していく様子を、いや、打ち消すというよりその情景は野鳥が自分の背丈程のネズミを食い荒らすようなそんな様子だった。

「はて?私が最初ですか…これは実にヴァリアブルなことですね〜実に…」

レオは瞬きもしない間に、クライ院長の背後に散歩でもするような足取りで回った

「エキサイティングな事だ」

「ひっっ!」


クライ院長は小さい悲鳴を上げると、レオにほつれた足に足を掛けられ、転ばされ、空中でその顔面を踏みつけられた。


クライ院長は地面に軽くめり込み、気絶している


「大丈夫かね?ヒューマン?」

レオは、、レオの形をしたモノはジョンの方を向き、気遣うように話してくる。


レオは貴族が靴で踏み潰した虫を見下しながら振り落とすように、

手を礼装のポケットに突っ込んだまま、鋼鉄の足に付いた血を振り落としていた。


その様相はジョンには孤児たちを踏みつけて笑っている大人達に見えて、更に恐怖を逆撫でした


「オウ!すまないクセでね、君を怖がらせてしまったようだ、重ねてすまないが、ここを早く離れるよ、普通の契約者ならこのようなコーヒーグランズは手で軽く払うだけでよいのだが、この少年の身体、いかんせんそう簡単にもいきそうにないのだ」

そう言ってレオの形をしたモノは笑顔で、ジョンを安心させようと、その手を取ろうとする。

その顔は墨を顔に塗りたくったようで、虚ろに染まっていた

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エクソシスト 庭取白紙 @niwahakase0328

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