第5話 おままごと

「もうちょっと愛想よくできないのかしら〜?それとも緊張して照れちゃってるのかしら?」


「確かにな…熱くなってきた…お前のせいでな」


シュタインは大剣を肩に担ぎ、くわえたタバコの火は青く激しく変化し、顔に不敵な笑みを浮かべた。


一方その頃レオは廊下で道行く子供に不審者の如く話し掛けていた。

そして、そうしている内に子供たちに両手両足の義体を面白がられ孤児たちの見世物と化していた。

「え〜〜これ何〜」 「私にも見せて〜」 「スゲーこれなんポンドするかな〜」

子供たちが次々に集まり、レオの義体を物珍しそうに触る。

「おい!そこ触るな!お願いだから脇をくすぐらないで!くそっこんなに子供がいたら魔人の判別がつかない!あれ?十字架がない!!」

するとある子どもが困惑するレオの手を引く。

その子どもは片腕がないレオと同じぐらいの少年だった。

少年はレオの手を引き、群衆からレオを引き離した。

「危なかったね!あの調子だと体バラされちゃうとこだったよ。」

少年はレオを横目に見ながら言う。

「助けてくれてありがとう。君は?」

レオは問う。

「ボクはジョン、ただのジョンさ。生まれたときからの捨て子だったから苗字はないんだ。」

ジョンはそう答えた。


「ジョン、オレの十字架知らない?」


レオはまたジョンに問う。


「たぶん、あの群衆の誰かが盗ったんじゃない?」


「みんな、お金がないから金目のものを見つけるとすぐ取っちゃうんだよ」


レオは首を下に下げて露骨に落ち込んだ。

それを見たジョンは肩に手を当て、「元気出せよ

ここにはなんてったってデリベル騎士団長がいるんだからな!」と元気づける。


レオは彼の言っている意味が分からなかった。

やがて、「ここだ」とジョンはつぶやき、

ジョンはある部屋の一室にレオを招いた。

中にはこれまた、ジョンやレオと同じくらいの年齢の子供が三人と、一人の明らかに年下と思われる男の子がいた。


茶髪の陰気そうな男の子とポニーテールの律儀そうな女の子がそれぞれジョンと話しだす。


「悪いねみんな今日も収穫なしだ。」


ジョンは少し申し訳なさそうに、だが明るく堂々と言った。


「まぁーそうだろうねアイツがいなくなってからもう1週間は経ってる。もう手がかりは残ってないんじゃないかな〜」


茶髪の少年は仕方なさそうに言う。


「そんなこと言うなよマーク、アイツは何処かに絶対いる。」


ジョンはマークをなだめる。


「そうですね、証拠を見つけれる確率は控えめに言っても大げさに言っても楽観的に言ってもクソのカス以下にもありえませんね」


ポニーテールの少女は冷静に話した。


「そんなことはないエリー. さっき収穫は無しって言ったが俺たちデルベル騎士団はアイツを見つける鍵を見つけた!新しい5人目の騎士!レオ・ハウズゲートだ!」


そう言ってジョンはレオを腕で指した。


「アノ〜5人目の騎士?アイツって誰?」


レオは突然の入団に驚き、困惑している。


「あ〜入団式を忘れていたな!そこに跪き給えレオ・ハウズゲート!」


ジョンはそんなレオをお構い無しに話を進める。

そして、なすがままに入団式が始まった。

それは、何処かの小説で見たことのあるような、ありきたりな儀式だった。


突如敷かれたレッドカーペットもどきの赤く染めらたボロ切れ


国王の衣装を纏ったジョンを部屋の奥に添え、

そのレッドカーペットもどきに沿うように均等に並ぶ四人の騎士

これらのセットを一瞬にして用意した騎士たちの動きはどのような兵隊よりも洗練されていた。


これより!デリベル無銘騎士団入団式を行う


国王がそう宣言すると、周りの騎士たちは同時に跪く。

国王は欠けたナイフを跪くレオの肩に右に左に軽く当て、

「神は彼の者を悪しき竜を打ち倒す者としてお選びになった、よってこのレオ・ハウズゲートを我らがデリベル無銘騎士団の第五騎士に就任する事を神の名の下に許そう。」


そうして、正式にレオは騎士団に入団したのだった。


なんだが変なのに巻き込まれちゃったな〜


「宣誓!」


立ち上がろうとしたレオを止めるようにジョンは今まで以上に真剣な声で言った。


「名のない我らという名の我らに、誇りを持ち、勇敢に戦うことを汝らは誓うか!」


「誓います!!」


レオは置いてけぼりを食らい、少しムッとしたが、

初めての同い年の子供との共同作業に胸を躍らされていた。


宣誓を終え全員の緊張が解けた頃、


「今のボクたちめっちゃそれっぽくなかった?」


ジョンはどうやら衝動が抑えられなかったようだ


「はい、今の私達は間違いなく最高に騎士団していました。」


エリーは無表情のままそう言った。

そんな二人を横目にジョンはレオに小声で話しかける。


「ごめんねレオ急にこんなこと言って、さっき助けた代わりと言ってはなんだけど少しこっち用事に付き合ってくれないかな。」


「何をすればいいの?オレ、孤児院にいる魔人を見つけないと行けないんだよ。」


マークは少し考えた、


「ならその魔人探し、私たち騎士団が手伝おう、ここの子達はみんな好奇心が強いから誰かしらは魔人について知っているだろう、君のなくした十字架もついでに探してやる。そのかわり君は僕達の代わりに人さがしに協力してくれ。」


レオは少し考え、その考えに乗った。


「よし、交渉成立だな。ジョン騎士団長ーーレオがハリソン探し手伝ってくれるって〜〜だから俺達で魔人見つけ出すぞ〜!!」


そう言って、マークは服の袖の中からメモ帳を取り出し、レオに渡した。

「マ、ママ、魔人?!そんな奴がいるのか?!おっ俺は知ってたからな!?」

そうして、騎士団とエクソシストの同盟が始まったのである。


レオはとある女の子の元を訪れていた。

メモによると83号室にアシェリーという孤児がいてその子が最後のハリソンの目撃者のようだった。

「君、アシェリーさんかな?」

レオは部屋の隅でボロ雑巾のように寝ている彼女を起こす。

よく見ると、長く灰色の髪の毛はボサボサで、彼女の爪はひどく短くなっており、血が出ている指もあった。

「はい…何のご用でしょうか…」

彼女は魂が抜けたような声で返事をする。

「大丈夫か?その手。」

レオが心配すると、アシェリーは急に慌ただしく指を胸の内に隠し、顔を赤く染めた。

「またやってしまいました…客人にこのような醜態を…ところで!あなた私の事心配してくれましたよね!?もしかして、神父様って私の事好きなの?」

しばらくして落ち着いたかと思えば急にレオの手を取り、顔を急接近させた。

レオは彼女のその奇想天外ぶりに驚きつつも、

「ごめん、俺ハリソンを探しに来ただけなんだ」

と優しく語りかける

すると、アシェリーは照れながらも語り始めた。

「ハリソンはね、すごいんだよ!仕事熱心で、カッコよくてね、頭も良くてね、よくあの星空の下で星座を教えてくれて、あと、おままごともしたんだよ!あとね……」

突然の惚気が始まった。

レオは頭を抱えながら余りにも幸せそうに話すので彼女の話を辛抱強く聞いた。

話の内容としてはアシェリーはどうやらハリソンに恋しているようで随分親しい仲なようだ。

そして、ハリソンは仕事熱心であり、なおかつ、下層民にも関わらず寝る間を惜しんで毎日経済学についての勉強をしていたようだ。その成果あってか、半月前にとある銀行員に目をつけられ、

しばらくの間その銀行員の下で簿記の仕事をしていたそうだ。

そして、1週間前、真夜中に最後に会ったのを機に次の日から孤児院に帰ってこなくなったようだ。

すると、アシェリーは話を続けるにつれ、少しずつ声が小さく、強張り始めた。

「私ね、忘れっぽいんだなんだかどんどん皆の中からも私の中からもハリソンがいなくなっちゃう気がして、忘れたくなくて…だからいつもハリソンがくれた時計をずっと見てるんだ。」

そう言って、胸ポケットから銀の傷だらけの時計を取り出した。


徐々に彼女の目から涙がこぼれ落ちてくる。

「ハリソンはね神様を教えてくれたんだ、神様はね皆を助けてくれるんだって、ねぇ神父様、神様は私のことも助けてくれるのかな。」

アシェリーはうつむき、言いようもない感情をレオにぶつけた。

レオは目の前の少女に何も言えなかった。

すると、レオの足元を何か黒い影が横切るのが見えた。

目を凝らしてみると、それはなんと首から上が切り落とされたネズミだった。

アシェリーもそれに気づき、悲鳴を上げる。

レオはアシェリーを先に逃がし、シュタインからもらったリボルバーを構える。

ネズミの首の断面は血みどろになっており、中の血管や内臓の断面は骸骨のようだ。

ネズミは次々と増えていき、ついには廊下の壁を埋め尽くすほどの数にまで増えていった。


魔人だと直感したレオにはあの日の記憶が蘇る。


あの、まるで生命を手のひらで転がすような、一切の希望を見たものから奪うような笑顔が、


親方が血まみれで倒れる姿が、


頭をよぎる。


レオは動けなくなっていた。

リボルバーを持つ手が震え、額に冷や汗が垂れ、もはや彼の目は、目の前に映るネズミたちの雪崩を認識する余裕がなかった。


そうしてる合間にもネズミはもうすぐそこまで来ており、レオたちの足元にまでに迫っていた。

そんなとき、後ろからレオの名を呼ぶ声が聞こえる。

ハッと我に返り、振り返ってみるとそこにいたのはジョンだった。

ジョンはレオの手を引く。

そのレオ達の動きに合わせるように、ネズミたちの動きは激しくなり、レオたちを追いかける。

ネズミの波は偶然鉢合わせた他の孤児たちを食い散らかしながら恐ろしい勢いでレオたちに迫ってくる。


「まずい!追いかけてくる!こっちだ!」


ジョンはそう言ってレオと共に廊下の奥の部屋に入り込む。

急いで部屋の扉を閉めるとネズミたちの扉にぶつかる音が激しく鳴り響いた。


「とりあえず、しばらくここで休もう、危なかったな、レオ」


ジョンが息を切らしながら言う。


「なんで、助けてくれたんだ?会ったばかりの俺を…死ぬかもしれなかったんだぞ?」


レオは声を荒げて言う。


「今日会ったばかりとか関係ない、君はデリベル騎士団の一員だ。騎士は人を見捨てて生き延びるような卑怯なマネはしない。俺は騎士団長だからね。」


ジョンは真っすぐな目でレオを見つめ、そういった。


「俺は…君とは違う…俺は怖いんだ…どうしても魔人に襲われたあの日の記憶が頭をよぎって、踏み出す勇気がないんだ。」


レオは機械仕掛けの拳を悔しさで固く握りしめた。


「ボクだって怖くないわけじゃない、さっきだってボクの見知った顔の子供達がバラバラにされているのをみて、死にたくないって思ったし、怖くて仕方がなかった。」


ジョンは虚ろな表情をして、レオの隣に座った。


「でも、ボクには夢があったから、

ジョンは立ち上がって誇らしげに言う。


すると、部屋の様子が急におかしくなった。

なんと、部屋のありとあらゆるシミからネズミが飛び出し、部屋の床や壁を覆ってしまったのだ。

「まずい、扉が開かない!」

どうやら、外側からネズミが押さえつけているようだった。

「マッチで火をつけて、ここを焼けば…クソ!ネズミが邪魔だ!」

ジョンは飛びついてくるネズミを必死に払い、一つしかないその腕で不器用にマッチに必死に火をつけようとしている。

それに対して、レオはこの状況に絶望していた。

「レオ!君にやりたい事はあるか!ここで諦める事が君のやりたいことだったのか?諦めるばかりの人生が君の人生だったのか?違うだろ!

オレはオレの人生を、、、!」

ジョンは肩を食いちぎられながらも、その痛みを必死に噛み締めた。

「俺の人生を諦めたりなんかしたくねぇぇぇ!」

その瞬間レオの奥底に眠る獅子が目を覚まし、その重い鉄の体に、我が身を溶かさん限りの熱を

帯びさせた。

そして、その熱はいつしか鉄の体を溶かし、

気づけばレオの体は背を押されたように動いていた。

そして、ジョンの持つマッチを手に取り、素早く

火をつける。

そして、その火を義手の中の石炭に放り込んだ。

そして、義手の中の火は中に仕込まれたガスに引火しレオの心のように熱く、激しく燃え上がり、

レオのジェットのような形に変形した右手の義手から、部屋の壁に向けて、扇状に火炎を放出した。

ネズミは壁ごと焼き払われ、部屋には大きな穴が開き、レオは義手を後ろに伸ばし、片方のジェットの推進力を利用し、滑走した。

「来い!」

レオはジョンに叫んだ。

ジョンはその声に応え、レオの首に腕を回し、2人は部屋を飛び上がった。

今日2人は第二のライト兄弟になった。

少年たちは血まみれになりながらも、宙を飛び、世界に雲を描いた

やがて制御を失った少年を乗せた飛行機は地面に少しずつ落ちていき、森に墜落した。


小鳥のさえずり、小動物の鳴き声、地を這うアリ達のパレード、森の中で仰向けで倒れた2人の耳は先ほどまでの喧騒とは信じられないほどの静けさを聞いていた。

やがて、二人は笑いだした。

レオは腹を抱えて、ジョンは仰向けのまま、まるで兄弟のように一緒に笑った。

あの日のレオのようにわけもわからず笑い出した。

「ありがとうな助けてくれて」

ジョンは言った。

「こちらこそ、俺を騎士団に入れてくれて、ありがとな」

レオはそう答えるのであった。

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