第3話 不和と不遜

「ついてきたまえ」

と言い部屋の扉を開く。


その瞬間、



「ニワトリーーーーーーー!」

部屋の入り口から強い風圧と共に大きな叫びが聞こえ、同時にシビュラを吹き飛ばし、シビュラは壁にめり込んだ。

運良く風圧から免れたレオが扉を覗いてみると、

そこには、動物の着ぐるみ?を着た女の子が

クワッ!と言わんばかりにクマの威嚇のようなポーズをとっていた。

その時代には似つかわしくない格好をした女の子は何を言っているかはわからないが、少し怒っているように見えた。

よく見てみると口の中から小さな牙が見える、

ただの人ではないようだ。

女の子はレオを見ると不思議そうに首を傾げた。レオのニオイをクンクンと嗅ぎながら犬のようにレオの周りをクルクル回る。

「にわ?ニワニワニワニワ クワ?」

「何?ナニナニナニナニ 何?」とお互い首を同時に傾げる。

謎の女の子の奇行とレオの困惑が同時に起こる。

「その子は大丈夫ですよ、あなたを気にかけてくれてるだけです。」

シビュラは手についたホコリを払いながら言う、

そう聞くと、女の子はハッとして着ぐるみのポケットからノートを取り出したかと思えば、

何やらペンで紙切れに何かを書き始めた。

そこには、

「ごめんなさい、君、魔人に襲われた子よね?

トラウマを呼び起こしたようですいません」と丁寧な字で書かれていた。

レオは少し申し訳無さそうにした。

「紹介しましょうこの子はハモニア・デルドーラ、私の義理の娘です。」

ハモニアはシビュラの方を見ながら事前に用意した紙切れを彼に見せる。

「依頼が来ています、対応お願いします」

誰かからの伝言だろうか、紙切れにはそう書かれていた。

それを見たシビュラは「わかったよ」と、一言言い、レオに目配せをして、部屋を出る。

それにレオがついていくと、そこには聖堂が広がっていた。


全体的に聖堂の中は薄暗く、外の光だけがステンドグラス越しに、明るく斜めに光を差している。

聖堂の左右には長椅子が並べられており、中央に道を作っている。


そして、その長椅子の一つにあの神父がだらしなく、口まで上がった襟の穴から煙管を吹かし、

腕を椅子に掛けて座っていた。

初めて会った時には顔はよく見えなかったが。

明るいところで見ると、

その立ち姿は大人びていて、真面目な堅物という感じがする。

目はだるそうで、この街では、いや、この時代ではそこら中にいる疲れた大人という感じがする。


レオはつい、「あっ!」と声を漏らした。


「改めて紹介しよう君の命の恩人のシュタイン・アルベルト神父だ。」

レオの姿を見た神父は上に上がっていた黒い目を下に顔と一緒にガクッと下ろし、何か暗い雰囲気が彼の周りを漂わせる。

レオはそれを感じ取り、一言、

「スゴイ嫌そう〜」とつぶやいた。

「シュタイン神父、こちらの……」

シビュラがレオを紹介しようとする。

「「こちらの、かわいそうで、惨めなガキの面倒をみてください」だろ〜〜?」

シビュラの言葉をシュタインは遮り、嫌味な口調で話し始める。

「なんだよ!俺は可哀想なガキなんかじゃないぞ!」

「あの時ピーピー泣いてたのに、よく言うぜ」

 見下し嘲るように、体の小さいレオを見てシュタインは言った。

「ナニオ〜?」

レオがシュタインにメンチを切る。

「じゃあお前何歳なんだよ」

少しバカにしたシュタインは聞いた。

「12だけど」

その瞬間シュタインはすごく驚いた様子で、「嘘だろ」とつぶやいた。

「じゃあお前もう「親方」なのか?」

食い入るようにシュタインは聞く。

「いや、家の鍛冶場は親方が認めてくれないと親方になれないんだ。」

「じゃあお前は「泣き虫ハーフアース」な訳か。」

シュタインは咥えていた煙管を浮かしながら

ケタケタと笑った。

「お前〜〜」

「お二方喧嘩はそこら辺にして、洗礼式を行いますよ。」

「洗礼式?」

「悪魔に関わる仕事が多いエクソシストが

定期的に、悪魔との戦いで汚れたその身を清める為の儀式ですよ」

「君は見ていてください」

そう、レオを一瞥し、教会の中央に立った。

すると、シュタインは即座にシビュラに跪き、

その場の雰囲気を厳格な物に一変させた。

「神に身を捧げし者よ、邪悪の権化に立ち向かいし者よ、我らが父と子と聖霊の名おいて、汝、洗礼を与えます。」

シビュラはそういって、小さいカップを取り出し、中の水をシュタインの頭に注いでいく。

シュタインは水に濡れた髪の毛をかき上げ、立ち上がった。

唖然としているレオに「行くぞ」と冷静な声で

シュタインは呼びかけると教会の外へ歩いていき、レオも困惑しながらも、それについて行く。

「どこへ行くんだよ」

「今からお前にエクソシストの生き方を見せてやるって言ってんだよ」

そう言って、シュタインは街へ繰り出していく。

「待ってください.レオくんこれを、貴方も見習いとは言えエクソシストだ、着ていきなさい。」

そう言って、シビュラは神父の黒い礼装と十字架の首飾りをレオに手渡す。

それをレオは白いシャツの上から羽織り、首から十字架を首に掛けた。

すると後ろから無邪気な声が聞こえてくる。

「ク~~~ワ〜〜!!」

デルドーラが後ろから手を振ってくる。

それを見たレオは不安そうな顔をして、手を小さく振り返し、シュタインを追いかけた。


町を闊歩しているシュタインは突然口を開く、

「そうだ、お前喧嘩したことあるか?」

すると、レオは砂漠の中にオアシスを見つけたように、目を輝かせて自慢げに答えた。

「俺な!俺な!親方と喧嘩して、負けたことないんだよ!あとね…」

「あ〜あ〜要するお前は身内以外とマトモに殴り合ったことが無いわけな」

と察したように目を天に上げながらシュタインは呆れたように言うと、一丁の拳銃をレオに放り投げた。


「いいか言っとくが俺は面倒くさいのは嫌いだ、これからの任務で、たとえお前が死にそうになろうが俺は一切構わない。」

「自分の身は自分で守れ。」

シュタインは冷酷な目でそう言った。

「おい!冗談でしょ?」

「冗談だと思うなら勝手に死んどけ」

そう言って唖然としているレオを置いて、歩いていってしまう。 

「ダメだダメだ、親方にも言われただろ?真っ直ぐだ、真っ直ぐ。」

レオは少し怖がりながらも、渋々ついていく事にした。

辿り着いたのはとある孤児院だった。

孤児院全体は大きな柵で囲まれていて、何とも言えない暗い雰囲気が漂っている。


一方その頃ダルニエル教会にて…

「クワクワ?」

ハモニアがシビュラの服を指で引っ張る。

「どうしたの?」

シビュラは幼児に話しかけるように聞くと、ハモニアは紙をシビュラに差し出した。

その紙にはこう書かれていた。


「シュタイン神父はなんであんなにレオくんに冷たいの?」

シビュラはふっと笑い、答える。

「なんでだろうね〜。

シュタイン神父は昔からああだよ、常に疑い深く、誰も信用していない。彼は元ロンドン警察だったからね職業病というやつであろう。

私も彼の信用を得るのには時間がかかったものだ、時には朝から晩までストーカーされたり、アリバイを聞かれたり、資金の出どころを聞かれたり、おかげで私の財布の紐は一時彼に握られた事もあったよ〜。」

「それただ単純にシビュラが金遣い荒いだけじゃないから心配されただけじゃないの?」

ハモニアはそう書こうとしたが、今もなお、それは治っていなかったので、書くのを辞めた。


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