属性

やっとの思いで演習場に辿り着いたオリオンをガブリエルとアネッテが迎える。


「遅かったじゃんか」


「その傷どうしたの?」


オリオンはジャッカロープによって服に所々穴が開いていて、体には小さな傷がちらほらあった。


息切れをしながらオリオンは応える。


「いやぁ、ちょっと後で話す」


オリオンが演習場に辿り着いて直ぐにクリファが来てしまい、オリオンは説明するのを諦めた。


クリファは、相変わらずの威圧感でオリオンは遅刻しなかったことに安堵した。


「さて授業の時間です。皆さん揃っていますか?」


ガブリエルが応える。


「はい! 一人残らずいます! 遅刻者はいません!」


まるで、ガブリエルがクラスのキャプテンのようだが、クリファに恐れおののいているだけだと、オリオンにはわかっていた。


「そうですか。それでは演習を行う前に、少し座学をしましょう」






        ◇◇◇






「昨日は引力の話を少ししましたが、今日はその引力を使って属性について学んでいただきます」





(いよいよ、本格的に魔法を使うんだ)





「引力というものは、物を引っ張ってくるためだけに使うのではありません。寧ろ、魔法使いはもう一つの使い方を主に使います」








「皆さんが持つ引力は、マナを自分のもとへ引っ張ってきて、操作するために使うのです。つまり、マナを集めて操作し、マナを火や水に変える」





クリファは「このように」と言って、左手を生徒に見せた。


すると、クリファの手に水が渦を巻いて出現した。





(え!? 何もないところから!!)


魔法に無縁だったオリオンのみならず、生徒たちは驚嘆の声を上げた。





そして、クリファの手の上の水は、次第に小鳥の形になっていき、小鳥はクリファの手を離れ飛び立った。


水でできた小鳥は、生徒達の頭上に雫を降らせながら、飛び回った。





「これは、水のマナを集めて水を作り出して形成しました」






(そうか! 引力で水のマナを集めることで水ができるんだ! その水を使って水魔法を使うのか!)





オリオンの生まれ育った村では周りに魔法を使う者がいなかった。


そのため、引力が魔法であると教わった時から、自分が使用できる魔法は物を引っ張ることだけなのだと思っていた。


引力を使って魔法を使うと知った時には、この引力が火や水に変わるということが、まったく理解できなかった。






「小鳥の形にして飛び回らせるのは、高度な引力操作が必要です。皆さんにはまだ早いでしょうね」






そこで、一人の生徒が挙手する。


その生徒はダークブラウンの髪色で、肌は褐色の背の高い男の子だった。


クリファは発言を許す。


男の子はクリファに最大の敬意を示した後に、口を開く。


「引力で水を直接引っ張るのでは駄目なのでしょうか」


「いい質問ですね。実に初心者らしいです」






(そりゃ、一年生だもん)


オリオンは、男の子の意見に共感していたため、クリファの一言が癇に障った。






「水を移動させただけでは、水魔法ではありません。あくまで、それは引力操作でしかありません。マナの状態から水を発現させ、それを操るのが水魔法。水そのものを持ってきたとして、その水を緻密に操作することはできません。水を移動させただけなのです。マナから発現させれば、今見せた水の鳥のように形を変えて、その後の動きも命令できるのです」





男の子は、納得したようでお礼を言った。





「マナを自分の手元に集めることで『魔力』に還元され、魔法になります。その魔力をどんな形でどんな効力をもたせるのかは、皆さんの発想しだいです」





(マナなら魔力になって、自分の使い方に委ねられるけど、物質そのものを引っ張ってきても自由が利きづらいんだ)





「マナはいろんな場所にあります。例えば、ここは森ですね。森には見ての通り、木が生い茂っています。つまり、木のマナが溢れています。更には、水。植物には水が欠かせません。木があるのなら水もあります。そもそも、まやかしの森には川が流れているのでマナは集めやすいでしょうね」





(水と木か。どっちもいいな)





「マナには、五大基礎属性というものがあります。火・水・木・光・闇の五つです。皆さんはメタリオスの一年生なので授業では、火・水・木のみを扱います」





(火のマナは森にはなさそうだな)





「ちなみに火のマナもこの森や私達の生活の中に、溢れています」





(え! 火が? 森に? どうやって存在しているんだ)





「さて、座学はこのへんにして演習に移りますが、何か質問があれば受け付けます」






すると、さっき質問をした背の高い褐色の男の子が再び挙手した。


クリファは再び、質問を許可した。


「マナの発生源について質問です。先生の話を聴いて、水があれば水のマナが発生する。木があれば木のマナが発生する。と理解しました」


クリファは頷く。


「人間の体は五十パーセントから六十パーセントが水分だといいます。人間の体からも水のマナは発生しているのでしょうか?」


その質問にクリファの表情が変わった。


何かを牽制するような表情だ。


「いいえ。体内の水からはマナは生まれません。人間に取り込まれた水は自然としてのイデオロギーを持っておらず、人間を作り上げる物質の一部になっています。ですので、体内の水はマナを発生させないと考えられています」


「ですがそれはあくまで通説ですよね」


「そうです。実際に、体内から水のマナの発生が確認されていないこと、体内の水だけを狙って操作できないこと。その事実を踏まえて体内の水は操作できないと考えてください」


「過去に体内の水を操作できた魔法使いはいないんですか?」


「過去に操作できた者はいません。この話については上級生になってからです」


クリファは半ば強引に話を終わらせた。


この話題を嫌っているかのように。

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