上級生

大群ではないが数匹いる。


(なんで?)


安心して直ぐの出来事で動揺が抑えられないオリオンは、教室の中を落ち着きなく、あっちへ行ったりこっちへ行ったりと歩きながら考え始めた。


すると、ポンポンポンッとジャッカロープが現れたのだ。


(また、増えた!)


どうしてジャッカロープは何もないところから現れ、増えるのか。


オリオンの思考と足は止まらない。


そう悩んでいる時もやはり、ポンポンポンッとジャッカロープが増える。


しかし、今回の増加現象でオリオンはある仮説を思いついた。


(これってもしかして、俺が歩くと増えるんじゃないか?)


オリオンは試しに歩く。


一歩歩いただけでは何も起こらない。


オリオンは十歩歩く。


するとジャッカロープが何もないところからポンっと現れた。


(そうか。歩いたり走ったりするとジャッカロープが現れるのか。なら止まっていれば・・・)


しかし、止まった瞬間、ジャッカロープの目の色が変わる。


ジャッカロープはそれまで呑気にくつろいでいたように見えたが、急にオリオンを見つめだした。


まるで獲物を狙うように。


(なんだこの視線。気味が悪い)








目の前のジャッカロープが唸り、気を取られていると背後にいたジャッカロープがオリオンの頭にしがみつく。


そのままオリオンの髪の毛をむしり取ろうとする。


「うわっ! 痛い! 何するんだ!)


他のジャッカロープもオリオンに飛び乗って噛みつき始める。


(どうしてだ。急に狂暴になったぞ)


力づくで払い、ジャッカロープを投げると机にあたったジャッカロープはポンッと音をたてて姿を消した。


(衝撃を与えると消滅するのか?)


残りのジャッカロープは十匹。


オリオンは自分にしがみつくジャッカロープから順に掴んで地面に叩きつけた。








(よしこれでいなくなった。しかし、これからどうする。移動すればまた、ジャッカロープが現れて襲ってくる。そもそもなんでこんなことに)


するとガタっと音がする。


(なんだ!?)


音がした方を見ると一匹のジャッカロープがいた。


(まだいたのか・・・!!?)


しかし、そのジャッカロープはそれまでのものとは異質だった。


これまでのジャッカロープよりも五倍大きかったのだ。


(なっ! デカい!!)


それだけではない。


ジャッカロープは、今この時もぐんぐんと大きくなっている。


たじろいだオリオンは一歩後ろに引いてしまった。


ポンッとジャッカロープが現れる。


(しまった!!)


そのジャッカロープもぐんぐん大きくなっていく。


(まてまて!!)


オリオンはジャッカロープに拳を打ち込むもその程度では反応しない。


(駄目だ! この大きさじゃ効かない。どうする)








すると教室内にある声が響き渡る。


「はーはっはっはー!! 悩んでいるね!!」


「誰だ!?」


「誰だ? まったく口が悪いねぇ。オレは四年生だぞ! 敬語を使いたまえ!」


「まさかこのジャッカロープ、お前がやったのか!!」


「そうだよ。今朝通りすがりに魔法をかけておいた」


(そういえば、さっき寮の前で・・・)


「なんでこんなことするんだ?」


「これは教育さ。ちゃんと学院の教師公認だ」


「嘘だ! こんなの授業なわけがない!!」


「そんなことより、どうだい? オレの魔法『狩りをする弱者』は。このままいくと押し潰されちゃうけれど、どうする? どうやって切り抜ける?」








(どうやって・・・。引力を使うか? でもまだ、ゼロか百しかできない。もしフルで出して校舎ごと破壊してしまったら・・・)


「さあ、どんどん大きくなるぞ!!」


(いやこのままジャッカロープが大きくなっても校舎が壊れるならば)


オリオンは両サイドにいるジャッカロープに向かって両手を伸ばす。


(何をするつもりだ?)


オリオンは一か八か引力を開放した。


ジャッカロープの体が引きずられ始める。


(狙いを定めるんだ。あの大きな的を目掛けて、あそこだけを狙って)


両サイドのジャッカロープはズルズルとオリオンに近付いていく。


(なんだあの魔法。引力か? まさかあんな巨大な魔物を引っ張れる引力なんて聞いたことないぞ)


オリオンの引力に耐えられなくなったジャッカロープは勢いよくオリオンに向かって飛んでくる。


(どっちみちそれじゃあ、お前は押し潰されるぞ!)


オリオンは両手を勢いよく上に向ける。


するとジャッカロープの体は上に振られる。


ジャッカロープは天井にぶつかり天井が崩れる。


そして、天井にぶつかった二匹のジャッカロープは、そのままお互い衝突してポンッと消える。


天井が破壊され、上の階から人が落ちてきた。


「うわぁぁっぁぁぁ」


ドスッと音がして埃がブワッと湧き上がる。


「いてて」


それに気が付かないオリオンは自分の手を眺めながら確かな感触を得ていた。


(危なかった。まだ引力をコントロールできたわけじゃないけれど、今までと違って意図した使い方ができた。少しずつ進んでいる)








天井から落ちてきた人影はオリオンに向かって言う。


「き、今日はこのへんにしておいてやる!」


人影はそのまま教室から出て行った。


「えっ? なに?」


オリオンは、襲撃の犯人を見ることは出来なかったが、現在の自分の状況には気が付くことが出来た。


(やばい! 授業に遅れる!)


オリオンは今度こそ演習場へ走っていく。






         ◇◇◇






学院四年メタリオスの生徒である、スキオロスの魔法『狩りをする弱者』の能力は、対象者に触れることで発動条件を満たす。


対象者が『歩く』『走る』など足を前または、後ろへ動かすとジャッカロープが発現する。


一歩から十五歩、歩くことで一体のジャッカロープが現れる。


ジャッカロープの行動はフェーズに分けられている。


フェーズ一は、対象者を追いかけるだけ。


フェーズ二は、能力に気付いて対抗手段をとる対象者にかみつく。


フェーズ三は、ジャッカロープが意図的に破壊された場合、強化する。強化は『体を大きくする』『スピードを上げる』『咬合力を上げる』の内一つ。


フェーズ四は、一歩でも踏み出せば、十匹発現し、対象者が死ぬまで噛みつく。この時の咬合力はフェーズ二の二十倍になる。

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