あの人と話したい
「千堂くん……」
あれから、変わった。
千尋も、俺も。
「この仕事、任せてもいい?」
生徒会室は、狭い。
いつもと同じ。
生徒会室は、二人だけしかいない。
いつもと同じ。
俺たちがもっと話さなければ、この部屋の空気が変わることはないのに。
業務連絡以外は声を発していない。
いつもと違う。
そして、何より。
「はい……」
俺が、千尋への恋愛感情を自覚した。
意外と、ここまでの過程の内容は濃くなかった。
一気に、千尋の可愛らしさに惹かれていった。
ゲームのバグみたいに、体を重ねたい。
いっそのこと、恋愛シュミレーションゲームの世界に二人で閉じ込められたい。
異常な想いから、心臓が強く鳴るんだ。
でも。
だから、なんだ。
他人の長所に気づくって、いいことじゃないか。
それこそ、恋愛シュミレーションゲームのように。
一緒に幸せになればいい。
何気ない、日常の一部だろ。
いつも通り、関わればいいのに。
理性を失っている。
理性を失った時の感情の走り方を、初めて体感した。
気持ち悪い。
選択を間違えて、ゲームオーバーになりそうな感覚。
そして、さらに。
それを重くする、現実という名の重し。
この感情を、投げ捨てることができるなら。
そう考える。
いつものように、関われない。
それは、怖がっているわけではない。
今現在、いつものように関わって。
嫌われていたら。
もう、俺には他の友達もいる。
正直、友達を一人だけ失ったとしても。
大きな被害では無い。
でも、恋愛感情が恐怖感を煽る。
あれ、怖がっている。
正直、よく分からない。
なんで、恋愛感情を楽しむ人間がいるんだろう。
そして、恋愛感情を冷やかす理由はなんだろう。
でも、恋愛感情をそうやって扱える人が羨ましい。
俺は、それのせいで。
一人の友達と、まともに話せなくなった。
「……昨日の件。」
すこし呟いたが、そこから言葉が詰まる。
「千堂くん、そういうこと?」
そういうこと、なんだと思う。
「まあ、たしかに。男の子の部屋っていう意識がなかった私も悪い。」
修羅場のような雰囲気に、胸にへばりつく感覚。
「別に望んでいるわけではない。この感情、持っていて辛いなって感じるから。」
安堵の表情をしないでほしかった。
「純粋な付き合いじゃないのは、苦手だな。」
純粋な付き合い、か。
そうか。
これって、汚い感情なんだ。
まあ、そうだよな。
俺みたいな汚い男が、自分のきめ細やかな肌に濃密につくなんて。
汚いよな。
そんなことを考えてしまう副作用のある感情は、千尋にとって汚い感情だよな。
「明日から来ないでください。」
汚い感情の混じった友情なんてものが、存在していい筈がない。
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