## エピローグ「軌跡」
# 境界系譜 -Cross Scene- モニタの向こう側で
## エピローグ「軌跡」
事件から一ヶ月後の帝都大学。
御堂研究室には、いつもの青白いモニタの光が灯っていた。
「先生」
佐々木が新しい研究データを手にして入室する。「群衆行動の自然収束性について、興味深い観測結果が」
彼女の研究は、朝倉の残した理論を基に、新たな展開を見せていた。強制的な制御ではなく、意識の自然な振る舞いとその収束過程の解析。事件を経て、その重要性がより鮮明になっていた。
「人々は、自然と最適な流れを見出すんです」彼女は熱を帯びた声で説明を続ける。「たとえば、この改札付近のデータ。一定の密度を超えると、自発的に...」
「群衆の知恵、ということですね」
工藤が別のモニタから顔を上げる。彼は依然、タルボットの開発を続けていた。しかし、そのアプローチは大きく変わっていた。
「制御ではなく、観測と理解に重点を置いたシステムに」彼は画面のコードを指差す。「朝倉さんの理論が、僕たちに教えてくれたことです」
御堂は二人の会話を黙って聞いていた。
事件の後、警察からの依頼は更に増えている。しかし、その解決手法は微妙に、しかし確実に変化していた。
群衆の制御ではなく、その自然な動きの理解へ。
強制ではなく、共鳴による解決へ。
「次の論文の準備はできましたか」
御堂が佐々木に問いかける。
「はい。タイトルは...」
彼女は一瞬ためらった後、続ける。
「"群衆行動における自然収束性の研究 ―朝倉理論の再考察―"」
御堂は静かに頷く。
研究室の窓から、夕暮れの光が差し込んでいた。
---End---
境界系譜 -Cross Scene- モニタの向こう側で えるろん @aileron
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