第14話 白薔薇を巡る攻防
鳴海夕貴は崩れかけた教会の奥へと進んだ。瓦礫を乗り越えながら奥へ進むと、一枚だけ無傷の木製の扉が目に入った。古びた彫刻が施された扉には、白薔薇の紋章が中心に刻まれている。
「これが……。」
鳴海は扉の前で立ち止まり、息を呑む。その扉は、まるで彼女を迎え入れるように静かに佇んでいた。
「橘さん、これを見つけたら……。」
彼女は振り返って橘の姿を探そうとしたが、追手と対峙しているため遠くにいる彼がこちらに来ることはできない。
「今は私が進むしかない。」
鳴海は意を決して扉の取っ手を掴み、ゆっくりと開けた。その先には、暗闇に包まれた狭い部屋が広がっている。
部屋の中に足を踏み入れた鳴海は、懐中電灯を取り出して周囲を照らした。薄暗い中、彼女は中央に置かれた木製の台を見つける。そこには一冊の古びたノートと小さな箱が置かれていた。
「これが……隠されていたもの?」
鳴海は慎重にノートを手に取った。表紙には「白薔薇計画」と書かれており、ページをめくると中には手書きのメモや図、そして複数の名前が記されている。
「この名前……。」
鳴海は驚きの声を漏らした。その中には、再開発計画の中心人物である西田貴彦や、廃工場で倒れていた男の名前、そして過去の白薔薇事件の被害者の名前までが記されていた。
さらに読み進めると、「資金ルート」「隠蔽」「麻薬取引」といった言葉が頻出している。これらは、再開発計画が単なる都市整備事業ではなく、裏社会との繋がりを持つ計画であることを示していた。
「これが……真実。」
鳴海は手が震えるのを感じながらノートを閉じた。
次に、彼女は小さな箱に手を伸ばした。錆びついた金具を外して蓋を開けると、中には白薔薇の紋章が刻まれた鍵と、一枚の写真が入っていた。
「これは……。」
写真には、若い女性が微笑んでいる姿が映っていた。その女性は、6年前の白薔薇事件の被害者の一人である佐伯美月だった。
「彼女が……なぜここに?」
鳴海は写真を見つめながら呟いた。鍵と写真が何を意味するのか、それはまだ分からない。だが、この場所が過去の事件と現在の事件を繋ぐ重要な場所であることは明らかだった。
一方、教会の入り口付近では橘が男たちと対峙していた。リーダー格の男は冷たい視線を向けながら、橘に銃口を向けている。
「お前はここで終わりだ。」
リーダーの男が冷たく言い放つと、橘は動じずに答えた。
「終わるのはどちらかな。お前たちがここで何を隠そうとしているのか、全て暴かれるぞ。」
「ふん、警察は口だけは達者だな。」
男が引き金に指をかけた瞬間、遠くから鳴り響いた車のエンジン音が男たちの動きを止めた。
「何だ?」
男たちが振り向いた先には、別のSUVが近づいてくるのが見えた。その車は、橘たちが使っていたものではなかった。
SUVが停車すると、中から現れたのはスーツ姿の別の男だった。彼は先ほどの男たちとは異なる威圧感を持ち、まるでこの場を支配するかのように周囲を見渡した。
「お前たち、ここで何をしている?」
新たな男の声は低く、鋭かった。彼の登場により、現場の空気が一気に変わる。
「……上からの指示で証拠を処理しているだけです。」
リーダー格の男が答えると、新たな男は冷たい目で彼を一瞥した。
「上からの指示? 私が聞いていない指示を誰が出した?」
「そ、それは……。」
リーダーの男は明らかに動揺し始めた。
「全員、下がれ。ここは私が引き継ぐ。」
新たな男は冷静に言い放ち、その場を支配した。橘はその様子を見ながら、事態がさらに複雑になったことを悟った。
教会跡から戻ってきた鳴海は、新たな男の存在に驚きながらも、懐に隠したノートと箱をしっかりと握りしめていた。
「橘さん!」
鳴海が小声で呼びかけると、橘は彼女の存在に気づき、小さく頷いた。
「何を見つけた?」
「証拠です。再開発計画と白薔薇事件を繋ぐ……これが真実です。」
鳴海はノートを橘に渡しながら言った。
橘はその内容に目を通し、険しい表情を浮かべた。
「これがあれば、奴らを追い詰めることができる。」
「でも、あの新しい男……彼が黒幕なんでしょうか?」
「まだ分からない。だが、この場から安全に脱出することが最優先だ。」
橘と鳴海は、男たちに気づかれないよう教会跡を離れようとした。しかし、背後からスーツ姿の男たちが近づいてくる気配を感じた。
「急げ!」
橘が小声で叫び、二人は瓦礫の陰を駆け抜けて車へ向かった。途中で何発かの銃声が鳴り響き、二人は何とか車に乗り込むことに成功した。
「これで一旦、距離を取る。」
橘はアクセルを踏み込み、車を走らせた。
選択肢: 読者への問いかけ
1.証拠を持ち帰り、警察内部で解析を行う
→ 安全な場所に戻り、ノートや箱の内容を詳しく調べる。
2.直接西田と接触し、証拠を突きつける
→ 新たな手がかりを元に、計画の中心人物である西田貴彦に迫る。
次回予告
「次回: 黒幕の輪郭」
白薔薇事件と再開発計画を繋ぐ証拠を手に入れた鳴海と橘。しかし、新たに現れた男の存在と、次に進むべき道が事件をさらに複雑にする。真実へ迫る二人の選択が、物語を大きく動かす。次の行動が運命を決める。
読者へのメッセージ
「読者の君へ――」
「真実は確実に近づいている。しかし、それを守る者たちが待ち構えているのも事実だ。この証拠をどう活かすべきか、君の選択がこの物語の未来を形作る。冷静に、そして慎重に次の行動を選んでほしい。」
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