第21話 茶髪ヘアの謎の青年
太陽がギラギラ輝く夏の空の下。
学校がない休日に白いパーカーの袖をまくり、黒い長ズボンを履いた俺は今。二階堂屋敷前の庭で、白いシャツの上に黒の長袖カーディガンを着て袖をまくり、黒い長ズボンを履いたレイと、水色のワンピースの上に桃色の長袖カーディガンを羽織り袖をまくった黒いポニーテールヘアの静原さんと三人で、一緒に悪霊退治における戦いの修行をしている。なぜこの夏にいつもと同じ服装……、厚い服を着用しているのかというと、極力極限状態でやった方が、実践でも活かせるのではという河童さんの道理があるようでない提案を受けてしまったからだ。それに、この今俺たちの着ている各々の私服は、どこかそれぞれの正装みたいなものになっているのだ。まあ流石に暑すぎる日は服を選ぶけど……。
ちなみにその提案を出してきた河童さんは今、自分のテリトリーである池で爆睡している。
「飛鳥ぁ!思いっきり来いっ!遠慮して手加減されたら修行にならねぇからな」
レイはやる気満々だ。それと対照的に俺はというともうすでに体力の限界だ。
静原さんはというと始めてから三十分ほどでばててしまい、今は屋敷の縁側で汗をハンカチで拭いながら、疲れ果てた様子で俺たちの修行を観ているただの観客と化していた。
やっぱこんな真夏に外で運動なんてするもんじゃない。
「あぁもう疲れたよお!そろそろ休憩しない?」
俺の提案にレイは眉を寄せる。
「あぁ?まだ始めて四十分程度だろ。休みたいならまずは俺に一撃当ててからにしろ!」
「ひぃぃ!!」
鬼かっ!
「竜崎くん!頑張って!」
あっ、あと火野くんも。と静原さんは俺をついでのように付け足しながらレイを応援している。
あの子はレイに好意を寄せているため、真剣な眼差しでレイを見つめていた。もうちょっと俺のことも応援しろよ。
あぁ、俺もそろそろ暑さで体力が限界だ。
いや、それでもレイに一撃当てたらひとまずは休憩。それなら残りの体力を振り絞って全力でやるまで。それに一撃くらい流石に楽勝だ。
俺は残りの霊力を全身に込み上げ、レイに渾身にぶつかっていく!
「たああぁぁっ!」
バシッ!
バシッ!
ガシッ!
ドシッ!
ガシッ!
ドシッ!
俺は連続でレイにパンチや蹴り、膝蹴りなど、とにかく打撃を撃ちまくった。だが、それらは全てレイに手で受け止められていく。
やっぱり霊媒師の戦闘経験の長さや、単純な霊力量の多さなど、ありとあらゆる面で俺はレイより劣っているのだと、一撃一撃を素手で受け止められるたびに内心しみじみと感じる。
いやでも、こちらにアドバンテージがあるのだとすれば、それは術が使えること。実力の差は己の術で埋めてみせる!
タッ!
俺は一度反撃をやめ、軽く後ろにステップしてレイから距離をとった。
「レイっ。こっちも本気でいくよ!」
「当然だ。俺も容赦はしない」
俺の本気で行くぞ宣言に、レイも頷き身を構える。
「怪奇妖術。
俺は右手の人差し指を上に挙げ、くるりと指を一周回した。指の動きに沿って指の先から小さな炎が円を作って現れる。
その指先から出た小さな炎の円を俺は手首ごと人差し指の先を下に向ける。するとその炎の円は俺の立っている地面から激しく燃え上がり、やがてそれは大きな赤い炎の大蛇へと変化した。
「すごい……」
それを観ていた静原さんもその大蛇の迫力に声を漏らす。
そして俺は「いけっ!」と合図をし、己の手をレイのいる方向に出し大蛇をレイに勢いよく突進させた。
ドゴォーーン!!!!
大蛇はレイに衝突し、大きな熱と共に激しい砂埃を巻きあげた。
「ごほっ、ごほっ、………やった?」
俺は咳払いしながら上手くレイに命中したかを見ていた。
すると、だんだん砂埃も去っていき、その先で一人の黒い影が見えてくる。
「ゲホッ、ゲホッ、………あぁ、危なかった」
レイは服こそ少し焦げていたが、体は砂埃がついた程度で無事だった。
「やった!当たった!これで挑まず休憩でいいよね!?」
俺のやり切ったというような言葉にレイも、あぁ少し休憩にしよう、と屋敷の前に腰掛けた。
「竜崎くんっ、大丈夫!?怪我とかしてないですか!?」
そばに座っていた静原さんがレイにあたふたと心配をしているが、レイは悔しそうに大丈夫だと返した。
俺に一発当てられたのがそんなに悔しかったのかな?と俺は思った。
「まさかお前にこんなあっさり攻撃を当てられるとは思わなかった。油断した」
とレイは俺にそう言う。
「えぇ………」
(俺、めちゃくちゃ舐められてるじゃん)
なんかこれはこれで悔しいな。
………にしても、俺もここ数日でかなり術も使えるようになった。さっきの大蛇の技も、最近生み出したものだ。日々の修行の成果が出ていて嬉しい。
と、そうこうして屋敷前で三人一緒に座って休憩していると、何やら森の中の方からドタバタとこちらに勢いよく走りながら近づいてくる、足音のようなものが聞こえてきた。
「ん?なんだ?」
レイが反応する。
「もしかして、熊か何かかなっ!?」
静原さんも急にこちらに向かってくるような足音に動揺している。
「えーっ!ヤバいじゃん!あっ、いやでも熊くらいだったら、俺たちならどうにか追い払えそうだけど………」
と俺も一瞬焦ったけど、よくよく考えたら悪霊なんてものと戦ってきた身からすれば、熊くらいなんとかなりそうな気もしてきた。
俺も随分とたくましくなったな。なあんて、一般人の感覚を徐々に失いつつある自分にふと恐怖を覚えることが増えてきた今日この頃である………。
それでも警戒しながら森の中を見ていると、何やら森の中から勢いよく一つの黒い人影が飛び出してきた。それは熊などではなく、人であった。それも俺たちと同い年くらいの青年で、ショートな茶髪ヘアに白の着物をを着ており、背丈は俺と同じくらい。
すると突然現れたその謎の青年は、顔を俺たちの方へと向ける。
「お?あれあれ?もしかしてあなた方が光太叔父さんとこで働いてるっつー人たちっすか?」
と、謎の青年はクリクリな目を見開きながら聞いてきた。顔は童顔でどこか陽キャ感のある雰囲気が漂っている。出会ってまだ数秒しか経ってないが、コミュ障で陰キャな俺にはすでに苦手意識があった。俺と同じ属性の静原さんもレイの背後にそっと隠れている。おそらく、彼女も瞬時に彼から陽のオーラを感じてしまったのだろう。
「………はい。そうですが………、どちら様ですか」
レイは突然なんの前触れもなく飛び出してきたその得体の知れない青年に、眉間を寄せながら怪しんでいる。いやそりゃそうだ。なんせ唐突すぎる。マジに誰なんだコイツは。
というか、光太叔父さん?二階堂さんの下の名前だ。えっ、まさか………。
「えっ、君。叔父さんってもしかして………」
と俺は陽キャ感の漂う彼に、恐る恐る口を開こうとしたその時、背後からこれまた唐突に声がした。
「お!
「
俺たち三人はほぼ同時に声が揃った。
背後からの声の主は二階堂さんだ。
状況が上手く掴めずにいた俺たち。
「えっ、二階堂さんコイツと知り合いなんですか?」
レイの質問に二階堂さんは何にも知らずに戸惑っている俺たちをおもしろがっているのか、笑って答えた。
「知り合いも何も、その子は私の甥っ子だよ」
………え?
「ええぇぇーーっ!?!?」
俺たち三人の声は空高くへと響き渡った。
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