第9話 めちゃくちゃビビってるじゃん
ガタンゴトンガタンゴトン。
静原さんに出会ったその日に、早速仕事に向かうことになった。窓から入ってくる夕方の光に照らされ、電車に揺られながら、電車の走行方向から見て右側に、走行方向から俺とレイ、静原さんの順に三人は横一列になって座席に座っている。
「ねえ、今疑問に思ったんだけどさ、仕事とはいえ廃工場って勝手に入っていいの?」と俺が二人に聞く。もっとも、二人にと言うよりかは主に霊媒師として経験豊富なレイに聞いたのだが。
するとレイは答える。
「そういうのはあらかじめ事務の人たちが仕事をしてくれてる。俺らは気にせず除霊に専念してればいいんだよ」
「そうなんだ」と俺。
なんかすごいなあ。俺たちの見えないところでいろいろとやってくれていると考えると、なんだかありがたいな。
俺たちは今、先ほど二階堂さんから言われた仕事に三人で向かっているところだ。
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静原さんと部屋で出会い、三人で話していると、部屋の襖がスライドし、二階堂さんがやってきた。
「やあやあ、遅くなってごめんねぇ。おや?三人ともさっそく仲良くなれたみたいだね」
二階堂さんは感心の笑みを浮かべた。
と、そのまま二階堂さんはふと言い忘れていたように言葉を続けた。
「あっ、そうそう。ちなみにあともうしばらく経ったら、またもう一人バイトの子が増えるからよろしくね。今のところ新しく入る新人はその子で最後」
「まだ増えるんですか……」とレイがため息を吐いた。レイはあまり大勢で絡むのが苦手らしい。俺も大勢は苦手だけど、俺の苦手とは違って、レイは単純に面倒なんだろうと思う。
そして二階堂さんは「さてと!」と手をパンと叩いて口を開いた。
「出会って早速だけど、君たち三人に今から仕事だ。ある廃工場で悪霊が住み着いているとの情報があった。今から三人でそこへ向かってもらう。出会ってすぐであんま話す時間なかったかもだけど、まあ電車に乗っている間にお話でもして三人とも仲を深めな」
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まあそういうことで、俺たち三人は電車で目的の廃工場へと向かっている最中だ。場所は携帯電話の地図アプリで確認済み。にしてもまだまだ時間はかかりそうだ。
ガタンゴトンと電車の走行音がする。周りを見渡すと乗客はあまり多くはなく、居眠りしている老女や、携帯電話をいじっている女学生に、本を読んでいる男子学生など、いろんな人がいた。
俺たち三人は先ほどまでは学校はどこかなり、なんの曲が好きかなり、いろいろ話していたのだが、今はもう特に話すこともなくなり無言状態。
俺は決して自分から話しかけるようなタイプじゃないけれど、もっと二人のことを知りたくて、純粋に気になった率直な質問をしてみた。
「……ねぇ、そういえば二人ってなんか趣味とかないの?」
「趣味……、まあ映画鑑賞かな」とレイ。
たしかに、実はこの前、初仕事で電車に乗っている間にレイと映画の話をして盛り上がったことがあったのだ。その際に、レイとちょっとした趣味の話になった。その時にお互いに何が好きかとかはだいたい把握している。
俺は主にコメディ系が好きなんだけど、割りかし冷淡なレイは意外にも人間ドラマ系のジャンルを好む。前に「なんか意外」とレイに言ったら「なんでだよ」とちょっとキレられたっけ。
「あぁ、確かにレイこの前映画の話してたらちょっと楽しそうだったもんね」と俺。
「飛鳥はたしか読書だろ?初仕事でこの前電車で向かっている時、ラノベの話してたしな」
「ああ、うん。漫画とかも読むけどね」
レイは他人にあまり興味を示さないのだけど、割と前に話したこととかをよく覚えてくれている。
「私も、小説とか好きですよ」と静原さんがレイの隣から顔を出して言う。
「夜に部屋で一人本を読んでいたりすると……落ち着きますよね」と静原さんが続けた。
「そうそう分かる!なんか静かな夜に部屋で一人小説を読んでたら落ち着けるよね!あとなんかエモい感じがするし!」
「あっ!それ分かります!」と静原さんが同意してくれた。コミュ症で人との会話が苦手そうな人だったけど、話すと割と気が合う。
「いやお前らどこにエモさ感じてんだよ」とレイがツッコんだ。
そんなふうに三人で他愛もない話をして笑いあっているうちに、目的の駅に着いた。
そのまま俺たちは降車して目的地の廃工場へと向かう。ここら辺は緑が多く、とてものどかだった。
あたりはまだほんのり明るいが、だんだんと暗くなりつつあった。駅からしばらく歩いていると、坂道を登ったり、電車が通過する踏切の信号を待ってから渡ったりして、ようやく現場の廃工場の前まで着くことができた。
五羽くらいのカラスが、工場が建つ真上の空を「カァ、カァ」と鳴きながら飛んでいる。なんだか気味が悪い。
「ここかぁ……。なんか雰囲気が怖い」と俺の言葉にレイが、
「いちいちビビんな。さっさと行くぞ」
と、中へと進む。
俺も腹を括り、その後に続くが、その後ろのもう一人が着いてくる気配がなかった。振り向くと、
「…………」
静原さんは足を 一ミリたりとも動かそうとせずにその場に立ち止まっており、今にも出てきそうな涙を必死で堪えながら、体を怖ばらせてビクビク震えていた。
………………。
めちゃくちゃビビってるじゃん………。
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