ヒロイン失格11 ~バレンタイン失敗~
昼休みが終わり
五時限目の算数の授業が始まって、終わる。
六時限目の社会科の授業が始まって、終わる。
そして終礼を迎えた。
時計の秒針が回転するごとに、私の不安と緊張は高まっていく。
気持ちを上手に心の中で処理できないまま、ここまで来てしまった。
でも、ちゃんと伝えなければ。
例え梶原さんを傷つけたように、他の誰かを傷つけることになったとしても、私は決めたのだ。
今日、告白する。
それを揺るがしてしまっては全てが駄目になってしまう。
「ふぅっ……」
ひとつ大きな息を吐いて凛と背筋を伸ばす。
「起立、礼、着席」
終礼の合図を済ませ、先生からの伝達事項を待つ。
「えーと、来週から六年生を送る会の練習が始まります。贈る言葉を記したプリントを配るから、各自家で一度くらいは見ておくように」
先生は淡々とホームルームを進めていく。
私は上の空だった。
ただ何となく周りの雰囲気と、先生が終わりを告げるために私を見たことで終礼を察知した。
「起立、礼、さようなら」
そう告げて終わる。
とうとうその時は、来た。
皆、帰り支度でワサワサとしている。
チョコレートを渡す相手がいる人は、それとなく、その人の机に行って、「ねぇ、○○君、ちょっといいかな?」などと恥ずかしそうに声をかけている。
私はというと、教室で京君に声をかける勇気がなかった。
だから、そそくさと教室を出てしまっていた。
京くんの帰宅ルートは当然知っているし、校門を出る時間帯も知っている。
下駄箱の外で待っていよう。
そうすれば誰にも見られない。
京君の周りに誰もいなければ、そこで声をかければいい。
冬も終わりに近い夕暮れ。
太陽は校舎の影に隠れ、冬の雲をすり抜けた光は、赤を強め、あたり一面を弱々しく照らす。
校庭のあちこちに残った雪は、泥で茶色く汚れ、カチカチに固まっている。
それが実際の温度以上に寒さを強調していた。
「えみちゃん、ばいば~い」
「さよなら~」
みな思い思いの言葉を告げて、校舎を後にしていく。
「ばいび~」
「さいなら~」
一人、また一人、校舎を後にしていく。
ドクン、ドクン、
胸が強く鳴っている。
「さとちゃん、ばいばぁい」
「うん、ばいばぁい」
一人、また一人。
ドクンっ、ドクンっ
胸の音が徐々に大きくなっていく。
「お~し、けん坊、部活行こうぜっ」
「おお~」
ドクンっ、ドクンっ
私の心臓が別の生き物のように大きく跳ねている。
内側から胸を突き破りそう……。
特に部活動をやっていない京君が帰宅するのはそろそろのはず。
ちらっと下駄箱のほうを覗いてみる。
人気はなかった。
行ける。
今ならきっと声をかけられる。
お願い!
京くん、出てきて!
神さま!
願いを叶えて!
ひゅーひゅーと、冬の冷たい風が吹き抜ける。
僅かに汗ばんでいた背中が冷やされ、身震いする。
ただでも緊張して硬くなった身体。
寒風に吹かれてカタカタと震えが止まらない。
寒さで足のつま先に感覚は無く、スカートからはみ出しているふくらはぎ、太股からお尻、腰の辺りまでもがカチコチになる。
頭の中は、先週からずっと練習してきた、声かけ方でいっぱいいっぱい。
指先も冷たい。
チョコレートを包んだ紙袋を上手く取り出せるかすら怪しいほどにかじかんでいる。
それでも構わない。
一刻も早く、私は、この、どうしようもないほどの焦燥から解放されたい。
ドキンっっっ!
圧迫された私の心臓が、とびきり大きな音で跳ね上がる。
来た。
誰もいない下駄箱に、京くんが一人で来てくれた。
ドキンっドキンっドキンっドキンっドキンっドキンっドキンっ!
私の心臓が耳に聞こえるほどの音を鳴らして周期的に跳ねている。
目の前がクラクラしてくる。
視線の覚束ないまま、私は下駄箱の方へカツカツと進む。
みょうにぎこちない歩き方になる。
1メートル先に京くんがいる。
このまま何も話しかけなければ、きっと私は変な人と思われる。
カチリ。
小さな音を立てて、私の心の中でトリガーが落ちた。
「あっあのっ! 京くん、今、ひまっ?」
唐突に切り出してしまう。
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「蓮華のステータス」
1,命の残り時間 :変化なし
2,主人公へ向けた想い :初恋レベル
3,希望 :★★★★☆
4,不安 :★★★★☆
5,得意分野 :自意識
6,不得意分野 :告白
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