第14話 襲撃

 ルミエさんは一瞬驚いたように目を見開きましたが、すぐに落ち着いた表情で私を見つめます。私は彼の青い目を見ながら、少し緊張しましたね。救護室の木の匂いが薄れ、外の冷たい風が少し入ってきます。


「……教会に?」

「はい。貴族たちがヒーラーを独占している以上、一般の人やここの第二騎士団の治療を改善するには、ヒーラーたちの解放が必要になります。その点、教会なら貴族とも多少なりとも対等にやり取りができるはずです」


 私の言葉に、ルミエさんは腕を組みながら考え込みました。私は彼の鎧が光るのを見ながら、少し首を傾げました。


「確かに、教会の神官たちは貴族と対等にやり取りできるだろう。しかし、そんなことは我々も思い当たった。だが、教会の上層部には貴族と癒着している者がいる。まずはそいつをあぶり出す必要が……!!」

「ありませんよ?」

「何?」


 私の言葉に、ルミエさんは心底驚いていました。私は少し微笑みましたね。貴族に癒着している神官などいることくらい、私にも想像がついています。その上で……私なら教会と交渉できる自信があったからこそ、私は向かうと言っているのです。私は少し目を細めて、彼を見ました。


「ルミエさん、私は戦場の悪魔……いえ、戦場の天使ですよ?」

「いや、悪魔と呼ばれているし、天使も本物ではないだろう?」

「その自信はどこから来るのだ?」


 彼がつぶやきました。どこからと言われても、この身からとしか言いようがありませんね。私は少し苦笑しました。でも、これ以上の問答は無用です。私はすぐにでも教会に向かわなければなりません。私は少し決意を固めました。


「ルミエさん、善は急げです」

「いや、だがな……」


 渋る様子の彼の耳元で囁きました。私は少し近づいて、小さな声で伝えました。私の言葉に、彼は目を見開きます。私は彼の驚いた顔を見ながら、少しドキドキしましたね。


「本当に……君はかの御仁を動かせるというのか?」

「ええ……ですから、お願いします、ルミエさん」


 そして、ルミエさんは私の前で跪きました。私は少しびっくりしました。何もそこまでしろと言っていないし、彼から見た私が本当にその立場なのかわからない。でも、彼がそうしたいなら、そうさせてあげましょう。私は少し首を傾げました。


「では、ご案内いたします、メアリー・リヴィエール様」


 そう言われ、彼は私を教会まで案内してくれることになりました。私は少し照れましたね。一応、一緒にマックスさんも来てくださるみたいですが、あの歩き方で大丈夫なのでしょうか。いいえ、ある意味治療がすぐにできるし、傍にいる方が安心できますね。……できますかね? 私は少し笑ってしまいました。

 一応、馬車に乗せてもらいながら、護送という形で送り届けてもらうことにしました。馬車の木の軋む音が少し耳に残ります。いくらなんでも第一騎士団の方々が街中で力づくで何かをするとは思えませんが、誘拐の可能性はありえなくもない。であれば、馬車で移動するのも妥当でしょう。そう思っていましたが、馬車でしばらく走ってもたどり着きません。私は少し首を傾げました。


「あの……教会はどちらに?」

「ああ、王都の教会は貴族街を通らないといけないのだが、我々第二騎士団は貴族街に入ることを許されていなくてね。一度、王都を出る必要があるのだよ」


 ……やはり病原は貴族ですね。私は少し目を閉じました。なんとかしないといけません。私は馬車の窓から見える風景を見ながら、少し決意を新たにしました。


「ここから王都を出るぞ」

「はい……」


 王都を出る。つまり、ここからは……街中ではない。であれば、多少手荒でも表沙汰にはならない。そう考えると、そろそろというところでしょうか。私は少し身構えましたね。


「うわああああああああ!?」

「何事だ!」


 御者さんの叫び声が響くと、馬車のすぐそばにいたマックスさんがこちらに話しかけてきます。私は窓から顔を出して、彼を見ました。


「敵襲です! 数名の野盗? のような者たちが馬車を襲っています」

「なんだと!」


 ルミエさんはすぐに馬車の外に出ると、剣を抜きます。私は外を見ようと御者台の方まで行きました。すると、そこには血だらけの御者さんと野盗が数人いました。私は少し目を丸くしましたね。


「今、治療しますね」


 私は治癒魔法で矢に刺された足を治療しました。柔らかな光が御者さんを包み、足がすぐに回復します。私は少し安心しました。


「ありがとな、嬢ちゃん」

「いえ……私は、メアリー・リヴィエールですから」

「? 変なことを言う嬢ちゃんだな!」


 変? まあ、良いでしょう。私は少し笑いました。私は馬車から飛び降りて、ルミエさんとマックスさんの間に立ちます。地面に降り立つと、冷たい風が私のローブを揺らしました。


「メアリーちゃん!? 君のことは俺が守るから馬車に戻りな!!」

「そうだメアリー! ここは騎士に任せてくれ!! 君の方が強くてもだ」

「何言っているんですか、団長?」


 そういえば、ルミエさんとは一度模擬戦というべきか、戦わせていただきましたね。私は少し思い出しました。もっとも、彼も女性である私に本気で手出しできたわけではないのですが……でも、彼が本気だったとしても、私は負けるつもりはありませんね。私は少し微笑みました。


「騎士様方のお顔を立てたい気持ちもございますが、多勢に無勢。お力添えさせていただきます」

「それは心強いな、メアリー・リヴィエール……いや、戦場の天使か。よろしく頼む」


 ルミエさんは私の手を取ります。私は少しびっくりしましたね。わざわざそちらの通り名で呼ぶとは……これから人を傷つけるというのに……癒していた頃は悪魔で、暴れる時は天使ですか。私は少し苦笑しました。やれやれ……。

 私は杖の先に結界を張り、鎌を創ります。光の鎌が私の手元で輝き、少し冷たい感触が手に伝わります。


「行きましょう、ルミエさん、マックスさん」

「ああ」

「おう!」


 私たちは馬車を襲っていた野盗たちに立ち向かいます。ちなみに、御者さんは馬車ごと結界で守っています。私は光の膜が馬車を包むのを見ながら、少し満足しましたね。私の結界も随分と効果時間が伸びたものです。それにしても、この野盗たち、ずいぶん上質な矢をお持ちのようで……。私は野盗の矢に目をやり、少し首を傾げました。普通の野盗にしては、妙に装備が整っている気がしますね。

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