04話 ⚫︎⚫︎⚫︎(ピーッ)で✖︎✖︎✖︎(ピーッ)! シャルティ・グリーン、▲▲▲(ピーッ)!
その①
「三人目、ですか……。状況は非常に芳しく無い様ですね」
場所はゲンレス帝国の会所。立て続けにシャルティエイルに変身出来る人間達が登場していく非常事態に伴い、幹部達は緊急会議を開く事となった。
「本来なら直ぐにでも行ってあっという間に出来る筈なのに」
「ヘルムの所為でワタクシ達は満足に動く事が出来ない」
「それに私がストックしていたコアも尽きてしまいました。コアを作るのにも陛下の許しが必要。……そこでゲイルさん、貴方の出番というわけです」
おう!! と筋骨隆々の巨漢、ゲイルは威勢の良い声と共に立ち上がり、握り拳を豪快に叩き合わせて鳴らした。
「ようやく出番ってワケか! ゲハハハッ! オレサマのゲンレスターで地球にいるカス共をたっぷり可愛がってやるぜぇ!」
そう意気込み、ゲイルは空間に生成した黒い穴に入り、地球の侵略を開始したのだった。
◇◆◇
「森若君。最近の君はどうかしているぞ」
地球時間、十六時頃。葵は緊急の呼び出しを食らい、職員室で座している担当教諭の前で直立していた。
「模範生である筈の君が突然授業中抜け出したり、授業をサボって学校を抜け出したり……一体どうなっているのかね?」
「……返す言葉も有りません」
弁明する事無く葵は深々と首を垂れる。しかし起こして見せた表情は、毅然としたものであった。
「何か悩みとか、深い事情とかあるのかね? 私でよければ相談に乗るぞ?」
「いえ。問題ありません。以後気を付けます。御心配をお掛けして申し訳ありませんでした。……失礼します」
日頃の行いもそうだが学年一の秀才が相手故にか親身になってくれる教諭。それでも葵は頑なに秘めたる物を隠し通そうとしている。
最後にもう一度、深く謝罪をして退室しようとしているが、無論そんな事で納得出来る筈があるまい。
「待ちなさい森若君! まだ話は終わって――!」
「もー遅いよあおっち! 何してんのー!?」
「オラ、早く行こうぜ」
「誰の所為だと思っている。生徒会副会長の僕の立場も少しは考えろ馬鹿共が」
男は絶句した。定慧須高校の期待の星たる森若葵が、あんな品性の欠片も無い落ちこぼれ達と親しくしているからだ。
巷で言う腐った林檎が金の卵を腐敗させようとしている由々しき事態に教師は立ち上がった。
「お前達!! 森若君は我が校の期待の星! お前達の様な落ちこぼれのカスが相手に――」
「せーんせ、ちょっといーい?」
明らかに規則違反の頭髪と装飾を施している問題児、向井伊月が軽快なステップと共に接近し、耳を貸すようジェスチャーする。怪訝そうな表情と共に教諭は屈んで耳を傾けた。
「――保健室の先生と不倫してるんだって?」
「!!!???」
思わず背筋が凍りつく。誰にも言えない、言う筈も無い秘密を突きつけられ、教師は絶句していた。図星を突かれた事に気付かれたのか、伊月は愉快そうに口角を吊り上げていた。
「ダイジョーブ! 誰にも言ってないし言うつもりも無いよ! ……先生の出方次第になるケド、ねぇ?」
冷酷な表情と共に吐き捨てると、背筋が凍る様な態度を一変させ、伊月はおちゃらけながら馴れ馴れしく葵と緋奈太の肩を組んで職員室を後にしたのだった。
「……我が校の命運、尽きたか……」
葵の担当教諭は力抜けたように椅子に座り込み、絶望したのだった。
「……にしてもオメー、やる事えげつねーな」
「えー!? ひなたんはムカつかなかったのー!? オレらのコト、落ちこぼれのカス呼ばわりしたんだよー!?」
「事実だろうが。言われて嫌なら少しは内申点を上げる努力くらいしろ」
周囲がざわつく。不良とチャラ男と優等生という不釣り合いな三人組が意思疎通を交わしながら廊下を闊歩しているから当然であろう。
それにしても目立って仕方が無い。こうも目立って落ち着いて今後の作戦会議すら落ち着いて出来ないだろう。
「生徒会室空いてっか?」
「駄目だ。今日は会長達が使う予定だから空いていない。……どうしたものか」
「はいはーい! オレ良いとこ知ってるー!」
そう言って伊月に案内されたのは華道部が使っているとされている校舎から遠く離れた和室だった。彼の情報によると、現在華道部の部員は一人だけでその一人も殆ど活動していない幽霊部員らしい。
「おお! 気にはなっていたが中はこんな感じになってんのか」
和室の中は広々とした畳の空間となっており、花を活けるには申し分無く、憩いの一時を与えてくれるにはうってつけの場所であった。
「ここなら広々としていてゆっくり話できるっしょ? どうどう!? よくね!?」
「……上出来だ、君にしてはな」
「なーんであおっちってそんなに捻くれてるのー? そんなんじゃ女の子にモテないよ?」
「放っておけ。……いいぞヘルム、出てこい」
葵が合図を出すと、緋奈太の鞄のジッパーを開け、颯爽とヘルムが登場する。
「さて、皆さん集まった所で作戦会議を――」
「待て。その前に聞いておくべき事がある」
妖精の言葉を遮り、葵が問い質す。何の事かと言いたそうにヘルムはキョトンとしていた。
「この前の戦いで君が言っていたSPPってのは何だ?」
「あぁそうだった! それが切れた所為であぶねー状況になったんだったぜ!!」
「そ、そうでした! 説明するのを忘れていました!! 申し訳ありません!!」
本来ならば命の危機すらなり兼ねない最悪の失態。それなのにヘルムの軽い態度を見た葵の表情は一層険しいものとなり、嫌味ったらしく溜息を吐いた。
「……君は本当に世界を救う自覚があるのか? 僕達の補佐すらまともに出来ないのなら君の存在価値なんて――」
「オイオイやらかしたっつってもワザとじゃねーしもう過ぎた事だろーが。あんまヘルムを責めんなよ」
「そーだよあおっち! そんな言い方、ヘルヘルが可哀想だよ!」
伊月は兎も角、被害者である筈の緋奈太すらもヘルムを庇う始末。それでも葵は納得していないのか渋い表情を崩さなかった。
「……いえ、葵さんの言う通りです。……すみませんでした」
「君は馬鹿か。謝る相手が違うだろう」
そう言って葵は顎で明後日の方向を指す。はっとヘルムが気付き、一番の被害者である緋奈太に向き直った。
「……緋奈太さん、すみませんでした。私の不手際で緋奈太さんを危ない目に――」
「別に気にしてねーよ。俺ぁ頑丈な位しか取り柄がねーんだからよ」
そう言って緋奈太は前髪を掻き上げ、殆ど塞がっている額の傷をヘルムに見せた。それでも気に病んで落ち込んでいたのでもどかしそうに男は人差し指で軽く小突いた。
「これで俺の気は晴れた。だからもう謝んじゃねぇよ」
「緋奈太さん……ありがとう、ございます……!」
屈託の無い笑みを浮かべる緋奈太と嬉しそうに涙を浮かべるヘルム。そんな一人と一匹の仲直りを見届けた伊月がふと横を見てみると、隣に居た葵は何処か照れくさそうにそっぽ向いていた。
「もしかしてこれが狙いだったり?」
「君が知る必要は無い」
「……ホント捻くれてるよね、あおっち」
「……フン」
葵の気が済んだ所で本題に移る事となる。前回の戦いでヘルムが発言していたSPPについてである。
「皆さんに説明したとは思いますが、シャルティエイルへの変身は、厳密に言えば変身ではなく融合です」
「まだあんましよく分かってねーけどよ、女にならなきゃシャルティエイルの力を使えねーって事だよな?」
「ええ。シャルティエイル達の魂と緋奈太さん達の精神をシンクロさせてようやく変身出来るという事です」
ゲンレスターに対抗出来る力を発揮する為のシャルティエイル。一時的に性別を変えるだけで問題無いと思われた矢先に発生したSPPという障害。緋奈太のデバイスには0と表示されており、葵と伊月のデバイスにも100以下というあまり大きくない数値が表記されていた。
「……要するに、このSPPというものはシャルティエイルの力を使う為のエネルギーみたいなものであり、これが尽きると変身状態が維持出来なくなる……と言った事だろうか?」
「まさにその通りです。SPPはシャルティエイル自身が生み出すエネルギーみたいなものです」
「じゃあ今直ぐにでも貯めないとマズいじゃん! いつゲンレスターが来るかも分からないんだし!」
「貯める方法、有るんだよな!?」
「勿論有ります。……取り敢えず、女の子になってくれませんか?」
あまりにも突拍子も無い事を口走るものだから緋奈太達は思わず素っ頓狂な声を漏らした。三人は互いに目を見合わせていたが、ヘルムの言う通り、デバイスのボタンをスライドさせて性転換した。
「……で、次にどうすんだ?」
「ちょっと待ってて下さい、……あっ、見て下さい! ホラ!」
そう言ってヘルムがヒナタのスマホを指すと、表記されていた0の数値がゆっくりと1に変わったのである。それは同じく性転換したアオイとイツキにもSPPは緩やかに上昇を示していた。
「……まさか、女にならないとSPPは貯まらないとでも言うんじゃないだろうな?」
「……そのまさか、です」
ヒナタとアオイは思わず絶叫した。可能な限り避けていた女の姿を強要されているのだからだ。
「さっきも言いましたが、緋奈太さん達はシャルティエイルと限り無くシンクロしなければ変身出来ません。何せシャルティエイルは気高い戦乙女ですから、その……男の姿だとモチベーションが上がらない様でして、その為、SPPも……」
「ふざけんじゃねーぞクソ戦乙女!!」
「世界を救う気あるのか馬鹿戦乙女!!」
シャルティエイルの魂が宿っているとされている宝石目掛けて口汚く罵るヒナタとアオイ。そんな自棄になっている二人に対してイツキだけが何故か面白そうにしていた。
「いーじゃんいーじゃん! 面白そーじゃん!」
「何で君は平然としていられるんだ!?」
「これから女として生きろっつってる様なモンだぜ!?」
「だってさー、それしかSPP貯める方法が無いんだったらしゃーなくね? そーだよねヘルヘル?」
「はい。……ですがもっと効率良く貯める方法もあります」
思い掛け無い発言に迷わず食いつくヒナタとアオイ。あまりにも必死なその形相にイツキは小馬鹿にするように溜息を吐いていた。
「現に性転換しただけではSPPの上昇も遅いでしょう」
「何かすれば直ぐにでも貯めれるという事だな!?」
「勿体ぶってねーで早く教えろっ!!」
「わ、分かりました、分かりましたから少し離れて下さい。二人とも顔が怖いですよ」
如何に自分が見っともない位に取り乱していた事に気付き、二人は思わず落ち着かせて、ゆっくりと畳に座した。
「それは……、カワイイ事をする事です」
ヘルムが告げる方法に、またしても三人は気の抜けた声を漏らしたのだった。
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