第37話 弟
琴音と映画を見に行ってから二日後、八月七日。
ピロン!
「ん?」
今日も今日とて自室でゴロゴロしているとスマホが鳴ったので、俺は起き上がって確認する。
着信は大山からだった。俺はアプリを開いてどんなメールが来たのか確認する。
「兵庫着いたぞー!」
「......えっ?何故に兵庫?」
俺は疑問に思って大山に返信する。
少しすると、大山からまた返信が帰ってきた。
「俺、明日から甲子園だからな!言ってなかったか?」
「マジか、すごいな」
俺は思わずそんな独り言を呟いていた。甲子園って、それってつまり全国大会ってことか?うちの高校の野球部ってそんなに強かったんだ。
(とりあえず、ここは応援のメッセージを、と)
「頑張れよ!」
「おう!」
俺が返信をすると、大山からすぐそんな返信が返ってきた。
(大山も頑張ってるんだから、俺も少しはしようかな)
俺は机に置いていたノートパソコンを持って開き、最近さぼっていたアニ研の活動である二次創作物、俺の場合は小説の執筆、を始めた。
俺が今書いている小説は、最近アニメの方でも完結したラノベ原作のアニメ、『勉強しかしてこなかった俺にしつこく恋愛の仕方を教えてくる奴がいる』の二次創作物である。
ひとえに二次創作物の小説といっても様々なものがあり、完結した作品のその後を書くもの、作品では書かれていないその作品の日常を書くもの、作品に少しオリジナリティを加えて書いたものなどがある。
ちなみに俺の小説は、完結した作品のその後を書いたものである。
今書いているものはラブコメで、完結した時点で主人公とヒロインがくっついているので基本的にはカップルになってからの様子を書いているのだが、これが案外難しい。
俺が知っているラブコメは大概男女が付き合うまでの恋模様を書いているもので、付き合ってからの恋模様を書いている作品はあまり見たことがないのだ。だからそういう作品についての知識がない。
付き合うまでの恋模様だったら、甘酸っぱく、じれったく、読んでいるこっちがドキドキしてしまうような、そんなものを書けばいいのだが、付き合った後の男女の恋模様は一体どんな感じで書けばいいのかわからないな。
ん?だけど、あの作品の二人だったら別に付き合った後でも、付き合うまでの恋模様のように書いて問題ないくらいピュアな心の持ち主だから、俺が想像していたようなラブコメを書けばいいのは?
俺はそんな考えが頭の中に浮かび、すぐさま執筆作業に取り掛かった。
◇◇◇◇◇◇
「......ふうー、ちょっと休憩」
約一時間ほど書き続けて疲れた俺は、パソコンを閉じて床に寝転がる。
ガチャッ!
「おい、にーちゃん!暇だから俺となんかしようぜ!」
「部屋に入るときはノックしろっていつも言ってんだろ、
「何女子高生みたいなこと言ってんだよ、にーちゃん!それより俺となんかして遊ぼうぜ!」
このうるさい奴は俺の弟、名前は田中光樹だ。現在中学一年生でサッカー部に所属している。
俺と違って運動大好きマンで、俺の記憶にある光樹は大体いつも動き回っていた。
だから、昔から運動神経抜群で今いる中学のサッカー部でも早くもエース的存在になりつつあるらしい。勉強の方はちょっと、いや、だいぶあれだが。
「それで?なんかって何するんだ?」
「えっとなー、今から総合公園に行ってサッカーを」
「言っとくが俺は運動はしないぞ」
俺は光樹の言葉にかぶせて念を押す。
「チッ、にーちゃんのケチ!」
「ケチで結構」
「あれだぞ、運動しなかったらぶくぶく太るぞ!」
「大体いつもそんなに運動してないけど、俺大して太っていませんが?」
「ぐぬぬぬぬ......」
歯ぎしりをして悔しがる光樹、ふっ、口勝負で俺に勝てると思ってんのか?
「そういや、お前部活はどうした?夏休みの間も毎日行ってたじゃん?」
「ああ、昨日県大会終わったから今日と明日は部活休み」
「そうだったのか」
確か昨日夕飯食ってるとき、光樹が県大会でトップ4に入れたとか言ってて喜んでたな。
「部活休みで学校も行けないから暇なんだよ~、体動かしたいんだよ~」」
「お前面倒くさいな」
俺の部屋でごろごろ転がりながらそんなことを言う光樹に俺は若干嫌な顔をする。
「そういや、兄ちゃんの高校って運動部結構強かったよな?サッカー部も全国行ったことあるらしいって聞いたことあるんだけど」
「あー、俺運動部じゃないしそういうの興味ないからあんま知らないな。あっ、でも、俺の友達野球部なんだけど今甲子園で兵庫行ってるらしいぞ」
「えっ、マジで!すげー、全国ってなんか憧れるな!」
光樹の奴、スポーツの話になると目がキラキラするんだよな~。
「そういや、お前夏休みの宿題大丈夫なのか?部活がないときにやっといた方がいいんじゃね?」
「ん~、大丈夫、大丈夫?ほら、俺ちゃんと計画立ててやってるから?」
「じゃあ、何で疑問形なんだよ?」
こいつ、嘘下手すぎんだろ、隠す気あるのか?
「それより、にーちゃんの方は大丈夫なのかよ?人のこと心配する暇ないんじゃないのか?」
「俺はもう三分の二は終わったぞ」
特にすることもなくて暇だったから宿題ちょっとずつやった成果だな。
「ぐぬぬぬぬ......部活にも塾にも行ってない暇人にーちゃんだからこそ、か」
「いろいろ全部余計だよ」
こいつ、何悔しそうな顔で俺のことディスってるんだよ。
「ほらほら、夏休み最後の日になって慌てて答え写したりする前に少しは進めとけ」
「......はーい」
そうして、光樹はとぼとぼと足取り重く自分の部屋へと戻っていった。
バタバタバタ!
と思ったら、何やら光樹の部屋が騒がしい。
「何やってんだー?」
俺が部屋から顔だけ出してそう言うと、光樹が部屋から飛び出してきた。手にはサッカーボールを持っている。
「今から総合公園でサッカーしてくる!」
「夏休みの宿題は~?」
「帰ってきてからやる!」
まったく、あとで後悔するのは自分自身なのに。
「外暑いから水筒忘れんなよ~!」
「はーい!」
光樹はそう返事をすると、冷蔵庫を開ける音が聞こえた。多分冷蔵庫にあるスポーツドリンクでも取ったんだろう。
「じゃ、行ってきまーす!」
「行ってら~!」
そうして、玄関のドアが開く音がして光樹が出ていった。
「相変わらず元気だな~」
俺はそんな光樹の元気っぷりに若干呆れながら、自室へと戻っていく。
「さて、俺もそろそろ執筆作業に取り掛かりますかねっと」
俺は閉じていたパソコンを開いて、書いていた小説の執筆に取り掛かった。
この次は、そうだな......主人公がヒロインから浮気を疑われてしまうところから始めるか、そして、最終的には二人の関係はもっと親密になっていくってことにするかな。
そうして、俺はしばらく時間も忘れて執筆作業に取り組んだ。
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