第36話 映画

「......暇だな~」


 プールに行ってから三日後、八月五日の午後二時、俺はリビングでゴロゴロしていた。


 リモコンを手に取り寝転がりながら何かめぼしいアニメはないかと探してみたが、特に何もない。


 というか、見てみたかったアニメは大体夏休み中に見ちゃったし、夏休み中に放送されているアニメ今日は更新されていないし。暇だな~。


 だからと言っても、優希は塾だし、大山は部活だし、小鳥遊さんとか米倉さんとか荒崎さんとかはまず連絡先知らないから遊びとか誘えないし。


 あと誘えるとしたら......琴音か。


 あの柔らかい感触......っておいおい!さすがに三日も経ってまだそんなこと考えてるのはキモすぎるぞ!忘れなきゃ、忘れろ、忘れろ、忘れろ......


 ブーブーブー!


 俺が精神を鎮めるために目をつぶって瞑想をしていると、電話がかかってきたらしくスマホが鳴る。


 画面を確認してみると、琴音からの電話だった。俺はさっきのことが頭をよぎり少し緊張しながらも、スマホを手に取って電話に出る。


「も、もしもし?」


「あっ、樹!急なんだけどさ、明日映画見に行かない?」


「映画?」


 本当に急だな。


「前の合宿でなんか映画館で映画見るのに興味が湧いちゃってさ~。だから誰かと行きたいなーと思ってね」


 そういえば、アニメ映画の聖地に行ったとき、琴音だけがその映画見たことなかったな、それでか。


「それで?俺と琴音以外に誰か来るのか?」


「いや?みんな塾で忙しいらしいから、私と樹だけで行くよ?」


 えっ、男女二人だけで行くって、それって......


 っていやいや!変なこと考えるな!親友なんだから一緒に出掛けるのは当たり前だろ!


「樹~?黙っちゃってどうしたの?」


「え?ああ、いや、何でもない」


 俺が一人で慌てている間、黙ってしまっていたようだ。琴音が尋ねてきた。


「そう?じゃあ、明日の十時に〇オンのシアターホール前に集合ね!」


「お、おう、わかった」


 俺がそう返事をすると、琴音がスマホを切る。


「映画か......」


 何見に行くんだろうな?


 俺は心の中でわくわくしながら、スマホで今放映されている映画を調べ始めた。



 ◇◇◇◇◇◇



 バスに揺られること約三十分、その後歩くこと約十五分。


「ここか」


 俺は十時前に、シアターホールがあるショッピングモールまでやってきた。


(あ~、涼しい~)


 室内に入ると冷房が効いていて、俺は少しの間立ち止まって冷気を全身で感じる。


 そして、俺はシアターホールがある五階に行くためにエレベーターがある場所へと向かう。


 エレベーターを見つけると、俺はエレベーターに乗り込んで五階のボタンを押した。


 そうして、俺は十時少し前にシアターホールに到着した。


(やっぱり琴音はまだ来てないか)


 シアターホール前には琴音はまだおらず、俺はベンチのような場所で座って待つことにした。



「お待たせ~!」


「まったく、十分以上は待ったぞ」


「いいじゃん、それくらい」


 琴音はへらへらしてそのまま映画の受付へと向かう。


「そういえば、今日は何見るんだ?」


「えーっとね、『声は高く、遠く』って映画だよ」


「ああ、最近出てきた奴か」


『声は高く、遠く』とは、八月に放映され始めた新作映画である。


 俺も詳しくは知らないが、高校の合唱部を舞台とした映画だった、と思う。


「すみません、この映画のチケットを二人分お願いします」


「かしこまりました、あっ、そうそう」


 受付の女の人が何かを思い出したようで、手を叩く。


「ただいまカップル割というものをしておりますが、どうなさいますか?」


「あ、えっと、私たちは別にカップルじゃ......」


「カップル割でお願いします」


「......え?」


 俺が受付の女の人にそう言うと、琴音は驚いたような表情をした。


「かしこまりました、二人で1600円でございます」


「ほら、琴音、800円」


「え?あ、ああ、うん、わかった」


 琴音は何故か少し反応が遅れながらも、財布から800円を取り出した。


「お願いします」


「はい、こちらの席でよろしかったでしょうか?」


「はい、大丈夫です」


「上映時間は今から二十分後でございます」


「ありがとうございます」


 そうして、俺はポップコーンなどを買うために売り場へと向かう。


「あ、あのー、樹?」


「ん?なんだ?」


 琴音が少し後ろから小声で尋ねてきたので、俺は振り向く。何故か琴音の頬は赤く染まっており、手混ぜをしてもじもじしていた。


「あ、あのさ、さっきカ、カップル割にしたのって......」


「ああ、カップル割にしたら高校生一人1000円のところ一人800円で200円お得になるって書いてあったからな!」


「え?」


 琴音は何故かポカーンとした表情をした。


「あ、ああ!そういうことね!」


「?どうかしたのか?」


「い、いや、何でもない何でもない!ほら、樹はポップコーン何味食べる?」


 琴音がいきなり話題を変えてきた、なんか挙動不審だな。


「ん?ああ、塩とキャラメルどっちも食べたいな」


「じゃ、じゃあ、ハーフ&ハーフにしようか!」


 そうして、琴音は塩とキャラメルのハーフ&ハーフでМサイズのポップコーンを頼んだ。もちろん折半で。


「じゃ、ちょっと早いかもだけどシアタールーム入っとこうか」


「そうだね」


 俺たちは受付っぽい人にチケットを見せてシアタールームへと入った。


 平日だということとまだ上映されるまで少し時間があることで、人はあまりいなかった。


 俺たちは指定された席を探して座ってポップコーンを設置する。


「なあ、今回の映画のあらすじとかって知ってるか?」


「いや、私は予告とか見ずに見たい派だから知らない」


「映画見始めたのここ最近だろ?」


「いや、サブスクとかで家で普通に映画は見てるからね?」


 周りの人の迷惑にならないように琴音と小声でそんなやり取りをする。


 そうして、しばらくすると映画が始まった。



 ◇◇◇◇◇◇



 エンドロール後、俺たちはシアタールームを出た。


「いやー、面白かったな!」


「そうだね、合唱の時の迫力とかすごかったし、映画館で見るの結構いいかも!」


「だよな~!」


 やっぱ琴音はわかってんな!


「そういえば、お腹空いたね~」


「もう十二時過ぎてるもんな、どっかで食べるか?」


「そうだね、そうしようか」


 俺たちはエスカレーターでレストランやらカフェやらがたくさんある四階に降りて、そこまで高くない店を探す。


「あっ、ここなんていいんじゃない?」


「そうだな、ここにするか」


 俺たちが入ったのは定食屋、食品サンプルが並んでいる棚を見てみたが、値段はそこそこで一人1000円以下くらいで済みそうだ。


「いらっしゃいませ~、お二人様ですか?」


「はい、そうです」


「あちらの奥の席までお願いします」


 店員さんの案内された席に俺たちは座る。


 そして、俺たちはそれぞれメニューを手に取り何を頼むか考える。


「よしっ、私はこれにする!」


 琴音が指差したのはミックスフライ定食だった。


「ポップコーン食べた後でよくそんな脂っこそうなの食えるな」


「関係あるかな?それより、樹は何頼むの?」


「俺はこれにする」


 俺がそうして指差したのはおろしポン酢ハンバーグ定食だ。


「最近暑い日ばっかだからなんかさっぱりしたものが食べたくなったんだ」


「へえー、そういうことか」


 そうして、俺たちはボタンを押して注文をした。



「ふー、ごちそうさま」


 琴音が食べ終わり、手を合わせた。


「結構美味しかったな」


「そうだね」


 俺たちはそう言って席を立ち会計を済ませる。


 会計を済ませると店を出て、そのままショッピングモールから出た。


「じゃあな」


「バイバイ~」


 俺たちはそうしてそれぞれ別の道を通って帰っていく......


「って、琴音もバスか?」


「うん、そうだけど?」


 ならなんでさっき俺に別れの挨拶を返したんだ?まあ、なんとなく反射でだろうけど。


「じゃあ、バスまで一緒に行くか」


「は~い」


 そうして、俺と琴音は一緒に同じバスに乗って、途中まで一緒に帰ることにした。


 楽しかったな。

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