第18話 末っ子ソシラと名推理

「お待たせしました。ご注文は?」


 まんして対応する。

 もう、俺には送りの言葉など無意味なのだ。

 なにを言われようと、そよ風に吹かれたようなものだ。


「いや、べつに注文をしたいわけじゃないけど……」


 末っ子ソシラは注文などないと言っている。

 いいかい、お嬢ちゃん。

 注文もないのに店員さんを呼んではいけないんだよ。


 仮にだ、他に聞きたいことがあっても直接聞かず、「これどんな料理なんですか?」みたいに自然な感じで呼びかけるんだ。

 それから本題へとうつるんだ。それがスマートな大人の会話だよ。


 ――まあ、うちのメニューにゃ水しかねえけどな。


「ふむ、注文でないのなら何ですかな?」


 あせらず対応する。俺は大人だからな。

 ゆったり構えて受け流す。ああ、余裕があるってすばらしい。


「オジサンてここに一人で住んでいるの?」


 おおおお、オジサン!?

 末っ子ソシラは言うに事欠いて俺のことをオジサンだと言う。


 誰がオジサンじゃい!

 俺はまだ二十代前半だ!!

 たぶん。


「オジサンじゃなくて、お兄さんだよ」


 やさしくさとす。

 ほんとうなら小突き回してやりたいところだが、ここはガマンだ。

 どうやら、会話で探りを入れてきたようだからな。

 そりゃそうだ。俺、見てすぐアンデッドだってわかるような恰好してないし。

 友好的に接していけば、案外すんなりいくかもしれん。


「そんなの、どっちでもいいよ」


 ところが、ソシラはどっちでもいいとか抜かしてきやがった。

 このガキ、下手に出てりゃあつけ上がりやがって。

 お前がよくても、こっちがよくねえんだよ!

 どういう教育受けてきたんだよ、まったく。最近の若いヤツはこれだから。


「そっかそっか、子供にはちょっと難しかったかな~」


 イラっとしたので皮肉で返す。

 見たところソシラは十代中盤ってとこだ。

 子供扱いされて一番嫌がる年代。

 フン、単純なもんだ。これで話の主導権を握れる。


「ムッ、わたし子供じゃないけど。もう14才だし」


 案の定、腹を立てたようだ。

 この程度で冷静さを欠いては冒険者としては成功できないな。


「はっはっは14才か。将来が楽しみだね~」


 これが大人の余裕ってやつよ。

 ヒヨッコには出せない味だな。

 14でこれじゃあ、将来なんてたかが知れてるなぁなんて思ってても口には出さない。

 なぜなら、俺は大人の冒険者だから。


「わたしの将来の話はいいよ。それでオジサンは何で一人ぼっちなの?」


 ひとりぼっち!!

 なんてこと言いやがるんだ、このクソガキは。

 確かにいま一人ぼっちだけど、決めつけんじゃねえよ。

 覚えてないけど、結婚してるかも知れねえだろ。


「お兄さんにだって仲間はいたんだよ。でも店が潰れちゃってね」


 とりあえず、この設定を貫こう。

 酒場が潰れたから、それを再建するってストーリー。


「ふ~ん、そうなんだ。でも、それ最近の話なの? 営業してたの百年前って感じなんだけど」


 ……たしかに。

 どう考えても建物が古すぎるな。

 俺がジジイでもない限り、年齢的に合わん。


「ははは、お兄さんが店をやっていたわけじゃないよ。店をやっていたのは俺のお爺さん。それを最近引き継いでね。再建しようかどうしようか悩んでいたところ」


 よしよし、設定の追加だ。

 俺は冒険者で、祖父から酒場を引き継いだ。

 冒険者を続けるか、パーティーを抜けて酒場を再建するか選択を迫られている。

 いいんじゃないか? とっさに思いついたにしては悪くないストーリーだ。

 これならウソも少ない。ボロも出にくいだろう。

 

「ふ~ん、お爺さんがねえ……」


 末っ子ソシラはなにやら考えている。

 話のアラでも探してんのか?

 はっはっは。ムリムリ。子供にゃ十年早いって。

 完璧なストーリーなんだ。

 ツッコミどころを探そうったってムダなことよ。


「でも、オジサンてゾンビでしょ?」

「なななな、なにを言ってるのかな? ちょっと意味が分からないなあ」


 スバリ核心を突いてきやがった。

 なんで分かったんだコイツ。

 やっぱ神に仕えているから、そういう能力があんのか?


 クソッ、それだと話つくった意味がねぇじゃねえか。

 せっかく完璧なストーリーを考えたのに。


 ――いや、まだだ。

 そんなもので納得してどうする。

 俺はスキル『昇天しない』をとったんだ。

 ゾンビを見分ける能力とか関係ねえ。お前の勘違いだで通せる。

 ここはシラを切りとおせ。

 金属板の力と自分の可能性を信じるんだ。


「俺がゾンビ? ハハ、そんなワケないじゃん」

「え~、そうかなー。わたしゾンビだと思うんだけど」


 思う?

 やっぱ勘だけか?

 よし、これなら十分切り抜けられる。

 

「お嬢ちゃん、それは失礼じゃないかい? 思うとかで人をゾンビ呼ばわりしてはいけないよ」

「う~ん、そう? でも間違いないと思うよ」


 だから、証拠を見せろって、証拠を。


「なんでそう思うのかなあ。お兄さん悲しいよ。証拠とかないんだよね? それだとただの言いがかりだよ?」

「ううん。証拠あるよ」


 証拠あんの?

 ふん、どうせ神の加護とか言うんだろう。

 だが、残念だったな。

 俺はそんなものでは納得せんぞ。

 スキル『昇天しない』をとった俺に死角はねぇ。

 いくらでも言い逃れしてやらあ。

 問い詰めたいのなら、誰もが納得できる証拠を持って来いってんだ。


「へー証拠? なにそれ。聞かせてくれる?」

「うん。だって、オジサンの背中にナイフ刺さってるから」


 ナイフ?

 背中に?


 ……あ。

 そうだった。俺は背中を刺されて死んだんだ。

 その刺さったナイフを見てゾンビって確信したんだ……。(一話参照)


 しまったあ! 抜くの忘れてたあああ!!!!!

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