「これはデモンストレーションだ」

 アルビオンが白銀の剣を手にする姿は、奇しくも、ヒルダが着装ベイルオンしたアルビオン・ブリュンヒルドを彷彿とさせるものだった。

 赤い流星はアルビオンが剣を振るう前に逆手に持った、ブレードによる攻撃を視覚で認識できないほどの速度で放つ。

それは、アルビオンの着装者となったルーデンスの回避速度では反応できない。


「なんだとッ!?」


 ように思われた・・・・・・・

 ルーデンスはむしろ、攻撃を剣で受け止め、蹴りを叩き込んだ。

 回避する素振りは囮で蹴りを叩き込むほうが本命という、ルーデンスが一日に何本もベイルバトルの配信のアーカイブを視聴する重度のベイルバトルオタクとして編み出した戦術である。

 回避行動と見せかけた、騙し討ちの蹴りを浴びせるカウンター。

 それは、中古のレンタル《ベイルナイト》ザトスしか扱ったことがないルーデンスの想像する動きを実現する補助をアルビオンがしているように思った。


 赤い流星が《ベイルナイト》の着装者として優れているのはわかる。

 多くのベイルバトルをルーデンスが視聴してきたが、赤い流星の動きはステンバー・アイズの着装者であり、現在の王者・・・・・であるコウゼンやランカーを彷彿とさせるベテランのものだと。


「悪いけど、ここらのガラクタ山なら負ける気はしないよ」


 都市部から離れた、このガラクタ山はルーデンスが長年足を運んでいることもあり、地の利では赤い流星に負けないという自負があった。

 蹴りを叩き込んだ後、剣を投げつけ、すかさず空いた足でガラクタを蹴り上げる。

 剣はアルビオンの手から離れたことで力を失った・・・・・

 まるで、水分を失った植物が枯れるような様は赤い流星とルーデンスを驚かせる。

 アルビオンが握っていた損壊した剣。

 それは白銀の輝きを帯びていた剣の如き姿となっていたが、アルビオンの手から離れた瞬間、その輝きを失った。


「(触れている間にのみ反応し、《ベイルナイト》の武装化する能力だと?ますます、危険だが、気づいているようには見えないな)」

「(手から離れた途端にガラクタに戻った……?)」


 いかにベイルバトルの配信アーカイブを視聴していようと、赤い流星と比較してもルーデンスの知識面はやはりまだまだ素人だった。


「これ以上の脅威となる前に!」


 赤い流星がアルビオンの胸部の水晶部、ベイルタルを狙う。

 ベイルタルは全ての《ベイルナイト》の弱点であり、ここにどんな一撃を受けても、ベイルバトルにおいては試合終了となる。

 赤い流星はルーデンスアルビオンの今後の成長を危惧し、その命を完全に摘み取ろうと、赤い剣を振り上げる。

 振り上げた瞬間、ルーデンスには妙な予感・・が走る。

 回避をしようにも、カウンターを叩き込もうにも、赤い流星のどこにも隙が見当たらない。

 赤い流星の魔力で底上げされた身体能力によって放たれる、その剣技はまさに神技であった。

 その剣技を放った瞬間、剣閃が同時に三度炸裂する。

 はずだった・・・・・、その斬撃を受けてしまったのであれば。


 その時、赤い流星の隣を瞬く間に駆け抜けていったのは、青い閃光だった。


「……レイ・クルスッ!まだそんな力が残っていたのか!?」

「シロートの子に戦わせてる、なんてわけにはいかないからね」


 赤い流星は負傷した右腕を押さえ、歩いてきたレイを見て驚いた素振りを見せる。

 レイの右手のひらからは青い光を放った後に周囲に漂う、光の粒子の残滓。

 負傷した身体で無理をしているからか、青ざめた顔で余裕を取り繕っている。


「だが、だが!!!」


 赤い流星はすぐに武装を魔力で生成する。

 魔力によって生成された、その赤い羽根のような形状をした武装をスケイルと呼ぶことはルーデンスは知っていた。

 レイにスケイルで作り出した、パイルバンカーによる一撃で負傷していた彼女にトドメを刺そうとする。

 先ほどより傷は塞がりかかっているが、それでも、《ベイルナイト》と渡り合うことはできないだろう。


 縦横無尽に飛び回るスケイル。

 ルーデンスはレイの前に立ち、スケイルから放たれる魔力弾を叩き落とす。

 何か武器がないかと探している間に死角からの攻撃を受けてしまう。

 そこでルーデンスはふと気づき、その手をスケイルへ伸ばす・・・

 白銀の手に触れた赤い流星の真紅のスケイルは白銀へ染まった・・・・・・・


「(まさか、奴も気づいたと言うのか!?自分の《ベイルナイト》の力に!)」

「やっぱりだ。アルビオンは装備がない《ベイルナイト》なんじゃない。触れた全て・・・・・・を武装できるんだ!」

「だが、今更気づいたことで何になる!?実力差は歴然、スケイルは狂人・・向けの武器だと知らないとは言わせないぞ!」


 ルーデンスがアルビオンに武装がない理由に気づくと、赤い流星はスケイルでパイルバンカーを生み出す。

 アルビオンに会心の一撃を入れようとするも、紙一重で回避された。

 白銀に染まったスケイルでアルビオンは右手に装着するための籠手ガントレットを作り出し、カウンターを叩き込む。


「これで、終わりだ!!」


 アルビオンの一撃が赤い流星のベイルタルに直撃する。

 アルビオンから赤い流星に魔力が流し込まれ、青い光が溢れ出す。

 着装ベイルオンが解かれたかに思われたが、水晶部にヒビが入るだけで《ベイルナイト》を纏っている状態が解除されることはなかった。


「……!」

「驚いたか?この《ベイルナイト》は特別製でね、競技用に調整デチューンされたのとは違うのだよ」


 赤い流星はベイルタルのヒビを左手でなぞった後、指を鳴らす。

 アルビオンが装着していた籠手の武装は解除され、赤い流星によって取り返される。


「レイ・クルスの命とその《ベイルナイト》はお前に預けておいてやる。

これは、あくまでデモンストレーションだ

せいぜい、噛み締めておくんだな」


 赤い流星は籠手をスケイルに戻す・・と、真紅の身体と一体化させる。

 スケイルを扱うのもだが、赤い流星のスケイルをボディに還元させるのだって相当な腕前でなければままならない。

 アルビオンとレイに指を指し、堂々と宣言した後に赤い流星は飛び去った。


「……追い払えたのか?」

「いいえ、見逃された・・・・・と見ていいと思う。私たちは」


 ルーデンスの言葉にレイが続ける。

 希望的観測を見せるルーデンスに対し、レイの言葉は現実を見ていた。

 未知の《ベイルナイト》を見事に扱ってみせたルーデンスだが、楽観的な姿勢はまだまだ経験が足りないとレイは見做していた。


「それで、これからどうする?厄介なことを抱え込んだけど、何かアテとかあるの?」

アテ・・はある。ただ、性格悪いけど……」


 レイの疑問にルーデンスが頷くも、中古品とはいえ、レンタルした白銀のザトスの残骸を見ると、頬がひきつる。

 雇用主がどんなことを言い出すのかは目に見えていたが、やむを得まい。


「レイはアルビオンのこと、どこまでわかる?このまま、ガラクタ山にいるよりは飛びたいんだけど」

「少なくとも、今ので消費はほとんどしてない。普通のよりかは燃費いいから」


 レイはアルビオンを纏うルーデンスを見ながら頷くと、ルーデンスは残骸になったザトスを魔力収束を行って待機状態に戻し、レイを抱えて飛んだ。


「ちょ!?急に飛んでんじゃないわ!」

「さっきの奴が戻ってくるよりは良いだろ!?」


 急に足底から魔力を噴出し、飛び上がったことにレイが驚く。

 アルビオンの頭部メット越しにルーデンスを睨むも、ルーデンスも負けじと言い返す。


「これくらいで良いだろう」


 二人のそんなやりとりの中、配信水晶の撮影が一人の人物に止められる。


 その戦いは、密かに世界中に配信されていた。


 アルビオン・ブリュンヒルドを思わせる、白銀の騎士と赤い流星の戦いは伝説となるのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る