冷凍室の地球

暗い中、冷蔵庫の明かりに照らされていると

一人ぼっちの自分が煌々と浮かび上がる

冷気もすべて逃げ去って、朽ちるように頽れていく

空っぽの冷蔵庫は生活感が抜け落ちて世界が狭く感じられるから好きだ

今は中に詰め込むことよりも、取り去ることを考えたい

大切にしているものがどれだけ壊れようとも関係ない

咳の数だけ気管が傷ついていくのが分かる


結末にむけて行進してきた集団は、予定通りにキャンプ地に着いたようだ

目的地は無い道の先にある

最初からわかりきっていたことだから、誰も慌てる様子はない

その場しのぎの挨拶を詰め込んで、また取り出してを繰り返している


全部全部冷凍室に閉じ込めてしまえ

君が重要視しているその話も

君が重大だと思って嘆いているそれも

君が大切にしている何もかも

そんなちっぽけな世界に収まっちまうくらい、些細なことなのだから

蓋を閉じて、また開いたときには消えてしまうような、刹那的なことなのだから


きっと頭の片隅にも浮かびはしないんだろう

僕がいなくても、世界は完結している

いないからこそ、平穏が享受されている


だから、たとえほんの一瞬であっても、そこに僕がいなくとも、

僕は不満足であってはならないのだ

好意的な感情も、積み重なった泥に埋もれてしまったようだ


どこかよそよそしい君も冷凍室で凍り付いてしまって

君の悪だくみの何もかもを、冷やし固めてしまうような

長い長い魔法が溶けて雪解け

スーツケースは荷物でいっぱいになる


得て、そして失う

また、失ってしまった

食べては吐いてを繰り返すように、僕はまた、全てを失う


次へ、また、次へ

僕らはそうやって生き急いでいる


猫背になるのはよそう

そこまでして守るべきものも、

そうまでしてそこに当てはめるべきものも、何もないのだから


さよならは、一度だけにしよう

もう会わないように、もうあなたに頼らなくて済むように


物語を終わらせるのはいとも容易い

噂ばかりで構成される肉体も、また噂に隠されていく

謝辞を書くのは最後にとっておくべきだ

多少は勿体ぶった方が、気持ちもこもるというものだろう


最後に会ってくれてありがとう

何もかも、もう、通り過ぎてしまうよ

一日はいつだって変わらず短いのだ

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詩集『噛む』 ちい @cheeswriter

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