買い物カゴ

戸棚の隅でほこりをかぶっている、

できるだけ目立たないものを選んで、買い物カゴに放り込む

形のひん曲がった愚図だとか

見るに堪えない形の盆暗だとか

そうやって集まった烏合の衆は、

皆々没個性に一様にうつむいて、レジを抜ける瞬間を待っている


ひとつまたひとつとカゴの重みが増すにつれて、

会計の時が近づいているようでドキドキする

脱走しようとするやつもでてくるが、

それを追う者は誰もいない


選択肢のない彼らですら追いかけないようなモノが、

ここを出ていったとして、他人に選ばれると思うか?

ここを出ていったとして、すぐに路傍の屑になり下がるのがオチだ


誰かに好かれるようなモノじゃない

ゆえにモノを好きになるような資格もない

物語の登場人物にもなれないような

掃いては捨てるようなちっぽけな生命体


あるいは


ようやく選んで、買い物カゴに入れてくれた存在すら

大切にすることができない愚かな生命体


ひとつひとつとレジを通されて

値踏みされて、レシートに置き換わっていく

彼らの価値が明るみになって

思いのほか高価だったり安価だったり、

己の価値に一喜一憂している


目をつぶっている間に通り過ぎて、

カゴの中身は空っぽになっている

だからこそ、金を払う消費者でありたいものだ

買い物カゴを握る側でありたいものだ


支払いの手続き

たくさんそろえたケーキの材料は、

ただ一人の満足のためにある

別の物質に置き変わる予定のそれらは、

レジを過ぎたことに束の間の安堵を得ているようだ


カゴの中に何がはいっていたのかなんて、

僕にはまったくわからない

価値を見出すのは僕以外の仕事で、

なぜそんなものを?という驚きばかりだ

だからそれらが一晩のうちに紙屑になっても驚きはしないし

今まで無理して張っていた虚勢を張らなくてよくなって

肩の荷が下りただろうと励ましたい気持ち


ハロウィーンの仮装の準備を進めなくてはならない

いや、間違えた

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る