長く生きれば生きるほどに

長く生きれば生きるほどに

思い出したくないことも増えていく

この人生の長い長い足取りにおいては

失敗も多く、思い出すことには尽きない

走馬灯へ素材提供可能なたぐいだ

編集者はきっと困るだろう

あるいは提供された映像を見て笑い転げているかもしれない

少しでも笑える撮れ高があったのならよかったよかった


過去も未来も未練ばかり

枕に頭を置いてから、ノイジーな扇風機をつけるのだ!

風は強めに設定しておくと、大切な思い出の品々を吹き飛ばしてくれる

安眠のためには欠かせない作法

朝目覚めたときに、唇が渇いていることがある

端は切れて、ただ口を開けることが少ないので助かっている


表面上に表れ出るものは少なくとも

きっと僕の体の内には蓄積し続けている

小さな切り傷は、ほんの些細なひと手間で致命傷になりうる

中くらいの切り傷であればなおさらに、注視が必要

起き上がりこぼしのような人生にこそ憧れる

唯々諾々と飲み込む穴でありたい

心がどこかにいってしまって、いざ残った体を開いたときに、

すでにそこには何も残っていないようで不安だ


恥ずかしくない人でありたいと思うのは

等身大の己と向き合わないこと

己の存在が恥ずべきものだと知れば

その恥とどのように向き合っていくのかに目を向けられる

ようは素材の活かし方だ、過度な期待は禁物だ、理知的な話は苦手だ

ありえないくらいのジャムに溺れていたい

暗い部屋は、それくらいおどろおどろしいものだ


新しいことに出会うたびにメモリは上書きされて

ただどこかに消し忘れのアドレスがある

それがふとしたきっかけで表出して

歯車を狂わせて止まない


ただ気を紛らわすためだけの食事

ただ明日を向けないことから目を背けるためだけの執筆

明日はいい日になるといいな

願うだけならだれにも迷惑はかけない

そのために、何もできない己の無力さを除いては

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