鎧7・パーティーですわ!!

ダンジョンの中で豚の鳴き声が響き、ガラガラと何かを運ぶ音がする。

それを見た冒険者達は語る。アイツは異常だ、あの鎧には関わるな……と。


……


…………


「はい、依頼達成ですね、ではこちら報酬の銀貨1枚です」


「ありがとう」


受付で何時もの職員から銀貨を受け取る。

初ダンジョンから数日、今日もダンジョン豚の討伐を終えて戻って来た。

魔物という割には普通の豚と大差無く、攻撃的なだけなので簡単に倒せ、何より……美味しい、しかも沢山いる。

この鎧を着ているとお腹が空いて食べても食べても中々満たされない、理由は分からないけどお腹が減る、そんな私にとってダンジョン豚はうってつけの獲物ですわ。


所でこの依頼、達成しても次の日にはまた貼り出されてますのよね、それだけ繁殖力が強いのか。


翌日、今日もダンジョン豚退治。効率を上げようと思い、鉄製の台車を持って来ましたわ。これに焚き火を乗せて運ぶ、これで一々焼きに戻る必要もなく、何匹か豚を乗せておく事も出来るので焼きながら移動も出来ますわ。

さ~て今日も稼いでお肉を食べますわよ~、塩と胡椒も持って来てますから完璧ですわ~お肉~!!


それから一時間程狩り続けて一通り数もこなしたので帰還、50匹くらいかしら、勿論全部食べて来ましたわ。台車を入口横に置いて冒険者ギルド受付へ。

すると周囲がざわめき始める。


「豚殺しだ……」


「……豚殺しの魔鎧まがいが帰ってきたぞ」


「あいつが豚殺しの魔鎧まがい……何と禍々しい……」


……何ですの、その豚殺しの魔鎧まがいって……


ヒソヒソ話している方をチラッと見ると全員蜘蛛の子を散らすように逃げて行った、やれやれ。どうやら妙な噂でも立っているようですわね。

気を取り直し報酬を貰って近くの席へ座る。掲示板の横に幾つか座席があって、そこで相談や会話が出来るようになっており、側には飲食物を頼めるカウンター、そこでは女性職員がグラスを磨いている。


持ってきた紅茶を飲み一息着く……私が着席すると皆遠巻きになって声が小さくなりますわね……静かで良いですけど……

さてこの後はどうしましょうか、ダンジョン豚の討伐は今日の分終わりましたし、他にも何か受けてみるのもいいかしら、結構慣れてきたし……


掲示板の方を眺めながら(眺めてたら掲示板見てた冒険者達が逃げて行った)考えていると、ふと後ろから声をかけられた。


「あ、あのすいません!!」


振り替えると二人が立っていた。

男女……?が二人。

一人は少女で私よりもかなり幼そうだけど……下半身が蛇、もう一人は頭が犬でフサフサした尻尾が生えている、亜人ですわね。この街では珍しいようで、ごく稀にしか見かけたことありませんけど。


「と、突然なんですけど、あたし達とパーティーを組みませんか!」


その一言で冒険者ギルド中が一気にざわめいた。


「ま、マジかよあいつ!?」


「おいおいおい、殺されるぞ……」


「……豚殺しの魔鎧まがいに話しかけるとか自殺行為だろ」


好き放題言ってますわね……


「オイラ達まだ駆け出しなんだけど前衛が居なくて、探してるんだけど何処も埋まってて組めてないんッス」


「冒険者になったばかりで何時も一人で居るみたいだから、どうかなと思ったんですけど……どうでしょうか?」


ふむ成程……今のところ困ってはいないものの……今後も考えると組んで損は無さそうですわね。周りから避けれれているようですし、組める内に組んでおいたほうが良いか。


「分かりました、宜しくお願いしますわ」


席から立ち上がり右手を差し出す。


「え!?あ……は、はい、こちらこそお願いします!!」


慌てて握手をしてくる……何で驚いたのかは察しましたけど、まあいいですわ。


「私はアーデルハイト・ガンドレッドノート、アーディでいいですわ」


「あたしはディドナ・ムンガルド、魔導士です」


「オイラはロウタ・ケルトロス、シーフッス」


「さて、まずはお座りになって」


着席を促すと二人は席へ座る。


「私は今日は特にこの後用事もありませんけど、そちらは?」


「依頼が一件残ってて、期日も近いんでそれを終わらせようかなと、二人じゃ心許なかったんでギリギリまで粘ってたんですけど」


「アーディが入ってくれて助かったッス!!」


ロウタの尻尾がブンブン揺れている、余程嬉しかったのかしら。


「で、その依頼は?」


「これです」


ディドナが依頼書をテーブルに置く、何々……ダンジョンでゴブリン討伐……成程、ゴブリンってアレですわよね、緑色で子供みたいな背丈で狂暴且つ野蛮な魔物、魔物とはいえ最低クラスなんでそんなに強くはないらしいですけど。

そう聞いたことがありますわ、絵本なんかにも結構出てきますわよね。


「ゴブリンって単独なら問題ないんですけど、集団で動いてる事が多くて……あたし達まだ駆け出しで多数相手はちょっと無理で」


成程、ロウタ一人では守り切れないってとこですわね、とはいえ私も集団戦ってしたことないのよね……まあ何とかなるでしょうきっと。


「分かりましたわ、では早速行ってみましょうか」


「はい!」


「ッス!」


紅茶を飲み干し、私達はダンジョンへ赴いた。


……この馬に居合わせた冒険者達は語る。

『とんでもねーパーティーが出来ちまったぞ』と。

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