鎧6・肉ですわ!!

別れた道から右を選びそちらに進む、他にも冒険者が居るのか微かながらも遠くからは金属音等が聞こえてくる。


「これがダンジョンですのね」


周囲をキョロキョロと眺める、こう、もっと洞窟みたいなのを想像してたけど、思ったよりは綺麗ですわ。

所々ヒビ等が見られるものの破損しているようなこともない。

中を適当に散策していると、道端に焚き火後が有った、誰かが火でも焚いたのだろうか、まだ半分以上は薪が残っていて良く見ると火起こしの道具までそのままになっている。


それらを横目に通過し進むと前方から「ブヒブヒ」と鳴き声がする、歩いて近寄って行くと……曲がり角からピンク色の物体がのそりと出てきた。

これがダンジョン豚ですわね、確かに豚である、但し目が赤く、淡く光っている。


「ピギィ!!」


豚は甲高く鳴くと突進してきた。


「ひぇ!?」


思わず横に避けると真横を通過していき……止まってこちらに振り向くとまた鳴いて突っ込んでくる。


「ひぃぃ!!」


それをギリギリで避け……何度か繰り返す。


「き、キリがありませんわ……」


このままじゃ埒が明きませんわね……あ、そういえば昔せバスがこう言ってましたわ。


『突っ込んでくるだけの相手は一歩横に避けつつ顔を思いっきり殴るのです』


……正直野蛮過ぎてしたことなんてありませんけど……仕方ないですわね。

またもや突進してきた豚を避けつつ身体を捻って……右手で顔を殴り付けた。


「ブギイィィィィィ!!!」


豚の顔がひしゃげ壁にまで吹き飛び、叩きつけられて痙攣していたが動かなくなる。倒せたかしら……?近寄って見ると首が折れているようであり得ない方へと曲がっている。


……やっぱりこの鎧凄いですわね魔物が一撃だなんて。

倒したら耳を切り取って回収するんでしたわね。折り畳みナイフを取り出し耳を切断する。屋敷の使用人が豚を捌いてるのを何度か見てますし、実際に切ったこともあるのでそこまで抵抗感は無いですわ、何事も経験は大事ですわね。


「これでよし……」


切った耳を袋に入れてふと思う、これ一応豚なんですわよね……このまま捨てて行くのも勿体ないような……


……グゥ。


……何かお腹が減ってきましたわ、朝食べて間もないのですけれど……


……グゥ。


…………いけるかしら。おもむろに豚の後ろ脚を掴んで引きずり、来た道を引き返し、先程焚き火後があった場所に戻って来た。

まずは豚の解体を始める。腹をナイフで切り裂き内臓を取り出す、これは流石に洗わないと食中毒を起こし兼ねないので薪にくべる。

本当は血抜きしたいのですけど今回はパス、内臓を除去したら枝に刺し、薪を組んで豚を固定、薪に火を点ける。


火が強くなってきたので焦げないように時折豚を動かしながら焼いていく。

周囲に煙と共に肉が焼ける香ばしい匂いが広まる、うーん良いですわ。


「……なあ、何か匂わねえ?」


「焼肉か……?」


「はっはっは、こんな所でか?そんな訳……おい、マジかよ……え、何あれ……」


他の冒険者達がやって来たのか後ろから声がする……が、今は豚の丸焼き作りに忙しいので無視ですわ。


「お、おいダンジョン豚食ってるのか……?」


「何でここで……?持って帰るならまだ分かるけどよ……」


「馬鹿、あんまりジロジロ見るな、あいつ絶対ヤベえ、あの禍々しさ絶対ヤベえ……」


コソコソと喋りながら彼等は通り過ぎて行った、それをチラッと見てまた視線を豚に戻す。


豚の脂が滴り落ちて薪がパチパチと音を立てる、何度かひっくり返し焼き目もしっかり付いた、そろそろかしら。ナイフで少し切り取ってみると……良し、中まで火が通ってますわね。では頂きましょうか。

切り取った部分を手で摘まみ口へ、品が良くないですけども仕方ないですわ、フォークもお皿も無いんですから。


うん、これはこれは……脂に甘味があって柔らかく美味しいですわ、血抜きしてないから少々生臭く感じるとはいえ、食べるだけなら充分及第点、後塩とか欲しいですわね。


切り取っては食べ、切り取っては食べ……何だか面倒になってきましたわね……はしたないですけど、丸かじりしてしまおうかしら。

後ろ脚を持って股関節からネジ取ると、脚だけになった部位に食らいつく、うん……うん……良いですわね、屋敷じゃ怒られますわこんな真似したら。

一度やってみたかったのですわ、こういう食べ方。


取った脚が骨へと変わり、もう片方の脚、両前脚、頭、胴体と胃に納めていき……気がつけば全部平らげていた。


ふ~満足まんぞ……


グゥ……


おかしいですわね……今豚丸々食べたんですけど、足りませんわ。

……次の狩ってきましょうか。


一旦焚き火はそのままに、新しく豚を探しに行く。

新しい肉、肉ですわ!!


……


…………


それから数時間後、ダンジョンのとある区画で冒険者達が集まり話し合っていた。


「……お前ら見たか?アレ」


「そっちも見たのか、何なんだアレ」


「……こっちも見ました、ひたすらダンジョン豚を拳で殴り殺して食べてましたよ」


「あんなヤバイの見たことないぞ……新種の魔物じゃないよな……」


この話はあっという間に冒険者達に広がり「豚殺しの魔鎧まがい」として知れ渡る事になる。


……


…………


「は~やっと満足しましたわ」


どれくらい食べたのやら、ちょっと袋に入れた耳を数えると……30匹分程……いや何でこんなに食べたのか……これって鎧のせいかしら……

……まあいいですわ、ここに来れば食事に困ることも無いでしょう。

後アレですわね、一々焚き火に持ってくるのも面倒ですし、携帯できる火器でも探しましょうか。それと豚を纏めて運べる物も。


では報告に戻りますか。

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