第一章 第七話 星見の丘
星見の丘 - 後半
星見の丘に着く頃には、夜風が冷たく頬を撫でていた。静寂の中、草の匂いがやわらかく香り、夜空には無数の星が散りばめられている。フランシアは私よりも先にその丘の頂に立ち、まるでその身が夜空と一体化したかのように広げた腕を風に任せている。
「ねえ」
私が彼女に声をかけると、振り返ったその目は月光を映し、どこか儚い光を湛えていた。
「私は、ここに立つたび思うの」
フランシアは草の中に座り込み、大地に手をついて静かに語り始めた。
「この大地には、人々のすべてが溶け込んでいるってことを。夢も、苦しみも、涙もね。私がこの大地に耳を澄ませば、何百年も前の祈りが聞こえてくる。何千の足音が響いてくるの。」
彼女はまるで丘そのものが自分の一部であるかのように語る。その声は、どこか私にとって理解しきれない深い何かを含んでいた。
「それは、君がここにいつもいるからだよ。」
私は苦笑いを浮かべ、彼女のそばに座り込む。けれど彼女は私の言葉を遮るように首を振った。
「違うの。ここにある全てのものはもともと全て一つの物事から始まったのよ。」
その言葉に少し背筋がぞくりとした。何を言っているのか理解はできない。ただその声があまりに確信に満ちていて、私が否定する余地を失わせる。
「全ての…物事だって?」
「ええ。でも、たぶんそれがわかるのは、もっと後のことなのよ。」
彼女はそれ以上何も言わず、目を閉じた。私はその横顔を見つめながら、まるで自分が夜空の中に吸い込まれていくような気持ちに襲われる。
「じゃあ、僕も?」
思わず問いかけると、フランシアは目を開け、柔らかい笑みを浮かべた。
「あなたは宙そのもの。星々の中に生きている。」
その言葉が何を意味するのか、私にはわからなかった。ただ、彼女のその声は、どこか懐かしく、心の奥底を震わせた。
「宙…星々?」
問い返す私に、フランシアはうっすらと笑うだけだった。
「星々はね、ときに言葉を持つのよ。宙がそれを許したときだけ。」
彼女は立ち上がり、夜空に向かって両腕を広げた。丘の上で風がふわりと彼女の髪を巻き上げる。
「宙は知っているの。すべてを。それがどんな形で終わり、どんな始まりを迎えるのかも。でもね、宙自身は語らない。ただ見守るだけ。まるでそれが、どんな言葉よりも深い慈しみだから。」
私にはその言葉がまるで謎めいて聞こえた。けれど彼女の言葉は、夜風とともに流れ、私の胸にそっと何かを残していくようだった。
彼女の語る言葉に、自分が星々と何か繋がっているのではないかという不思議な感覚が湧いてきた。けれどそれが何なのかは、ただの予感でしかない。
「この石も、きっと宙の一部なのよ。」
彼女はそう言って私の手の中の石をそっと撫でた。その手が触れた瞬間、石の中で金色の筋がゆらめき、微かな光がこぼれ、冷たい音が跳ね返る。
「宙の一部…?」
私は繰り返すように問いかけたが、彼女は微笑むばかりで何も答えなかった。ただ、その夜の星々は、何か私たちに囁きかけているように輝いていた。
この夜、星見の丘で交わされた言葉は、その後の私の運命を大きく変えることになる。しかし、そのときの私はまだ何も知らない。ただ、丘の上に佇むフランシアと星々の光の中で、何かが少しずつ動き始めているのを感じていた。
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遥悠久のフランシア Old Boy 老青年 @old_boy
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