第3話 偶然の出会い②

 「ルトヴァ!?砂漠の向こう側の大陸最南端の村じゃねえか!」

 「知ってるんですか!?何もない村だし、言っても分からないかと思った……」

 少年は自分の故郷は何もない普通の村だと考えていたため、男が村を知っていること。そしてその興味津々な反応に驚いた。

 「確かにあそこは閉鎖的だから有名な村じゃないが、自然豊かで、何よりクタルカ帝国で使われる魔法とは違う魔法を使うって聞いたことあるな」

 「そ、そうなんです!ルトヴァから出たことないから帝国で使われてる魔法がどんなものかわからないけど、帝国の天属性の魔法とは違って地属性の魔法を使うんです!」

 本の中でしか見たことのない雷、風、氷を操る「天属性」と呼ばれる魔法。そして、少年の故郷ルトヴァをはじめとした帝国領外でしばしば見受けられる火、水、土を操る「地属性」と呼ばれる魔法。この世界はこの二つの属性を主流にいくつもの魔法が使われている。

 「なんだ知ってたか、まあ杖も持ってるし見たところ魔法使い見習いってところか?」

 大好きな魔法の話題に意気揚々としながら少年は「そうです!」と声を上ずらせ、その様子に男は頬を緩ませる。

 「じゃあ、ラグジスへは魔法を勉強しに行くのか?あそこは魔法学院もあるもんな」

 「はい!僕、ずっと本の世界でだけで見る魔法をこの目で見て勉強してみたくて、十三歳になったら学院に入れるって聞いたから、それで、それで、世界中の魔法を見て回りたいんです!」

 「ハハハ、そうか!ならラグジスはぴったりだな!あそこは魔法で発展した都市だ。坊主を退屈にさせることはないだろうよ」

 少年はその言葉に目をキラキラと輝かせ、横に置いていた杖を強く握りしめる。

 「なあ坊主、俺は魔法はからっきしダメなんだが、なんでそんなに魔法が好きなんだ?」

 少年はその問いに「うーん」と言葉にするのを躊躇いながらも思い返しながら答える。

 「僕、小さい頃から体力ないし、全く運動ができなくて、それのせいでみんなに馬鹿にされたり、仲間外れにされてたんですけど……、そんなときにじいちゃんが市場で魔導書を買ってきてくれて、それで頑張ってその中の魔法を使えるようになって、みんなに見せたらすごい、すごいって馬鹿にしてた友達もみんな褒めてくれて……。それで、それから覚えるたびにみんなに見せてたら、みんな教えてって言ってくれて……。最初は認めてもらったり、褒めてもらうために覚えてたのに、気づいたら魔法そのものが大好きになってて……」

 男は言葉を詰まらせながらも嬉しそうに話す少年に「うん、うん」と相槌を打ちながら、背後に感じるその朗らかな様子に「ああ、眩しいな」と目を細める。

 「坊主にとって魔法は、坊主と友達を繋いでくれた、大事な物なんだな……」

 「はい、だから、その大好きな魔法についてもっと詳しく知りたくて……」

そう恥ずかしそうにポツリと言葉を紡ぐ。そして、男は「ん?」と少年の言葉を思い返し、申し訳なさそうに質問する。

 「運動苦手だって言ってたよな。よく砂漠越えしたな。何日ぐらいかかったよ……?」

 「え?えーと……、村から出て七日ぐらいだったかな……?五日ぐらいで越えられるって聞いてたからちょっと時間かかっちゃいましたけど……」

 「まじか!?だったら疲れてるよな……!疲れてるのに喋らせて悪かった!今日中にはどう頑張っても皇都にはつかねぇし今は寝てていいぜ」

 「え、あ、じゃあお言葉に甘えて……」

 「おう!ゆっくり寝てな!どっかで馬車停めるときはまた声かけるよ」

その言葉で少年はフードを被り、目を閉じる。すると疲れからか五分もせず気絶するようにストンと意識がなくなり、深い眠りについた。

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