第22話 ワタシのために争わないで・・・

ラーナリー郊外円形ダンジョン5階 ーエミル・D・アサネー


俺たちは雷溶獣フルモスライムの群れを求めてしばらく歩いていた。

「とりあえず、核を何個集めようか?じいちゃん。」

「レベルアップの目標をいくつにするかじゃの。」

「切りのいいところでレベル10はどう?おじいさん。」

 うーん。どうだっけ。まずLv.5の雷溶獣フルモスライム魂封印シールを作るに爪楊枝方式で2匹倒さなきゃだから。

「全部で32匹じゃ!」

 げっ!そんなに?

「うん、ワシの魂封印シールで合成してレベルを上げるときはの。ひとつレベルを上げるのに同レベルの核が1個必要なのじゃ。つまりはLv.5の核をまず作る。これが基な。これをLv.6にするにはLv.5の核を1個合成すればよい。Lv.7にするには3個いる。Lv.8にするには7個。Lv.9には10個。そしてLv.10には15個必要じゃ。」

「でも、無傷の核を手に入れるにはエミルのやり方で2匹の雷溶獣フルモスライムを倒すのが一番安全だから・・・」

「そう、倍の数が必要じゃな。だから30匹。基を作るのにプラス2匹。計32匹。」

 ここからは針を使う。少しは持ってきたんだ。

 うん。まぁ作業自体は簡単だけど、雷溶獣フルモスライムを見つける方が時間かかりそうだな。


「ん?ステフどうした?」

 なんか、ナーナー言ってるな。そういやどこに行ってたんだ?姿が見えなかったけど。

「ついて来いって言ってるわ。」

「いや、俺達は雷溶獣フルモスライムをだな・・・」

「まぁ、行ってみましょうよ。」

 マヤまで・・・まぁいいか。



「・・・何コレ?」

 数分後、俺のアゴは外れそうだった。

「これ・・・全部お前がやったのか?」

 俺はステラに抱かれる子猫のステフを見る。

 ナー!

 元気いっぱいの答えだネ。

 ステフがついて来いと誘った場所から数分。なだらかな草原のフィールドの坂の中腹に洞窟があった。

 踏み入ってみるとかなり広い。

 そこにはたくさんの雷溶獣フルモスライムが・・・雷溶獣フルモスライムが・・・雷溶獣フルモスライムの核が転がっていた。

「これでいいの?みたいなこと言ってるわ。」

「いいも何も・・・」

 俺は核をひとつ拾ってみた。傷ひとつ入ってないしかも最高品質だ。これも、これも。

「ともかく数えてみよう。」

 俺達は、手分けしてその数を数える。

「おじいさんそっちは何個?ええ、分かった。エミルは?」

「87個だ。」

「じゃあ、全部合わせて256個よ。」

 俺はステフの瞳をじっと見る。伝わってくれ。

「・・・ありがとう。ステフ。」

 ナー!

 元気いっぱいの返事だネ。思わず頭をなでた。

 まぁ流星の剣の化身だし、この辺りの魔物など屁でもないハズなのだが・・・どうやって。

「この子の母親は龍じゃからの。竜神は雷をその身に帯びておる。この子の爪や牙はいとも簡単に雷溶獣フルモスライムの内側に雷を送り込めようよ。じゃれついた程度でもこのようになるじゃろうの。」


 ああ、想像できるわ。ぽよぽよに突っ込んで遊びまわっているうちに、御一行様は旅立たれたわけね。

 しかし、じーちゃん、最初から分かってたんじゃ?

「子猫に仕事は頼んだりせんよ。」

 そうだよね。・・・しかし、まぁ賢い子だ。

 でも、ステラに褒められるほうが嬉しそうだネ。ああ、そうか、ステラを喜ばせたかったのか。


 そして俺達は洞窟の外に電気石トルマリンを運び出し、作業を開始する。ステフのおかげで核を手に入れるのに2匹倒さなくてよくなったのも大きい。

「よし、やってみようかの。」じいちゃんは全ての核を魂封印シール化した。

 魂封印シール化すると核は濁りが消えていく。純粋な電気石トルマリンになるのだ。それをじいちゃんは銀の皿に置いていく。

 じいちゃんの魔法の銀の皿、無印の魂封印シールが出てくる不思議な皿だけど、いろんなものも収納できるみたい。

 電気石トルマリンは皿に置かれる度に別空間へ消えていった。

「争いの種は仕舞っておかねばの。」

 

 作成した魂封印シールは、Lv.5雷溶獣フルモスライム 計256枚。


 話し合いの結果で残り4本の剣の内、15枚合成でLv.10の剣を1本、120枚合成でLv.20を1本作ることにした。計135枚使うことになるので、魂封印シールの残りは121枚。剣の残りは2本。まずはこの辺で様子をみようということになった。じいちゃんの見立てによると同等品でそろえた5本の剣はLv.25辺りが耐久度の限界だろうということで、Lv.20ぐらいでテストしようということになったのだ。



「こんなとこで何してんの?」

「うん、魔法剣のテストするんだー・・・ん?」

 どわぁぁぁ!

「ル、ルシーナ!」

 なななななんで?

「おっ、おまっ!なんでここに?」

「へっ?トレーニングだけど。」

 ああ、まぁS級ともなるとこの辺りは学校のグラウンドみたいなもんだよな。俺達でさえ半分ピクニックだし。

「じゃぁ、気にせずトレーニング続けてクダサイ。」

「やー、走ってたらこの子に会ったのー」

 おい、ステフ!

「トレーニングを再開してクダサイ!」

「こっちに連れて来てくれたのよ。賢いっ!」

 いや、話聞かねーな。

「トレーニングの途中でしょ!ホラ!」

「いいの。いいの。ほら、私も装具店のことそろそろ勉強しなきゃいけないし。」

 ん?起業されるのですかね?この御方は?商売敵になるの・・かな?

「女将さんになるには、お店のこと知らなきゃでしょう?」

 あー目が据わってる。まさか酒飲んでねーよな?


「こちらの方・・・どなた?」

 ん?マヤさん。どうしたのデスカ?ご機嫌を崩されておられるようデスガ・・・。

「あなたこそ・・・どなた?」

 あれ、あれれれ。

「私はマヤ!アウロンド装具店の専属テスターよ!」

 う、うん。確かにそうだ。俺が頼んだ。

「テスター?・・・・・おじいさん!私もテスターに立候補します!」

「はあっ?あなた冒険者じゃないの?」

「エミルのいないパーティなんて意味ないわ!私もテスターにして!」

 えー!ルシーナがいてこそのあのパーティだろ。どうすんだよ。みんな怒るぞ。

「ええよぉ!」

 じーちゃん、収まりがつかないでしょうが!

「テスターは二人もいらないわ!」

「じゃあ、勝負よ!」

 えー勝負って?

「エミル、魔法剣のテストをするって言ってたよね?」

「ああ、・・・はい。」


「それで勝負よ!」

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