第6話 記憶の良しあし
居酒屋 りた ーエミル・
「おう、エミル。ほんの少し早いけど初物だ。」
エミルは大将の出してくれた一品をひと目見るなり、ヨダレが垂れそうになった。
「ああ、そうだった。季節だな!」
娘さんで看板娘のリタさんがゆず入りのポン酢をを小皿で出してくれる。
「あー来た!これこれ。」
すかさず彼女は熱燗を出してくれた。俺はこれがいい。
ああぁ、ポカポカするぅ。
リタさんの瑠璃色の髪が揺れて、目も嬉しい。口ん中も嬉しい。こりゃぁいい。
冒険者は辞めることになっちまったが、たまにはこんな風に生きてて良かったって思えるからいいのか。
そういや、あんまり小さくて、考えたことがなかったけど、息子とも飲む日があったのかな?
アルとクララと大して変わらねえ年だったよなぁ。
子どもって親がいなくても、でかくなるものなんだろうしな。
前世の記憶ってのは、意外と・・・邪魔な時もあるもんだな。
「おい!こいつも食ってみな。懐かしいぞ。」
大将が何かが入った器を見せてくる。
入っていたのは茶漬け。そう
「こればかりは、好みがあるからなぁ。ははは。」
そう、この店では飯の量、
「ワシャあ、お前の婆さんにこれを習ったからなぁ!」大将が笑う。
そう、死んだ婆ちゃんによく食べさせてもらったっけ。婆ちゃんは、遥か西の国、海をずっと辿って渡ったさらに山の上の生まれらしい。
サヤシロって言ったかな?確か。行ったことないけど。神話の里らしい。
でも、どうやって知り合ったんだ?じいちゃんとばあちゃん。
まぁいいや、ともかく俺は、この茶漬けはご飯を盛って
半溶けの美学。口の中で味が変化するのを楽しむ。かあっ日本人だね。転生しても。
漬けられた
あへあへと
じいちゃんがトコトコと歩いてきて、俺の隣のカウンター席に座った。
「いいもの食っとるの。」
「いや、じいちゃん。これ食ったら店に帰るとこだったんだって。」
「いいもの飲んでどるの。」
「あはは、でもじいちゃんこそ珍しいね。こんな時間に。」
そう、最近じいちゃんは年のせいかあまり飲みには出ない。
「ちょっと仕事が長引いてな。」
やばい、油を売り過ぎたかな。じいちゃんが仕事が長引いてんのに。
「それに、もう出るじゃろ。
ああ、そうだね。婆ちゃんに会いに来たのか。婆ちゃんの味に。
「ご飯、よそおおうか?」
「ええい!自分でやるわい!」
あっ、じいちゃんも最初は茶を入れない派なのよね。あー行儀悪っ。
・・・よく婆ちゃんに二人して叱られたな。
転生してからの記憶もいいもんだな。
「おい、エミル。帰るなら、仕事場の片付けをしてくれ。まだ終わっとらんのだ。」
「ああ、わかったよ。あんまり飲みすぎないでな。迎えにくるの面倒だから。」
俺はひとり、酒と
早く片付けて、風呂入って歯を磨いて寝よう!
ウチの店は扱っているものがものだけに、扉などは頑丈で結構重い造りになっている。鍵はきちんと閉まっていた。勝手知ったるなんとやらで灯りも点けずスルスルと店舗側から作業部屋の方に向かう。
灯りを点けるのはこの部屋だけでいいや。作業場の灯りを点けようとした時、
ー誰かいるー
俺は見てしまった。青い服の右目に眼帯をした少女。
じいちゃんの作業机に腰かけてこちらを見ている。
その机には、じいちゃんの虫眼鏡とあのバックラーがあった。
俺は昼間のクララの言葉を思い出していた。
「バイバイ!ユーレイさん。」
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