試験
クロノヒョウ
第1話
「だあぁ~、もう! 試験試験って何回試験受ければいいんだよっ」
とある惑星に住む男が頭をかかえていた。
「仕方ないじゃない。地球に住みたいなら言葉を覚えなきゃでしょ」
隣に座っていた女が呆れた表情で男を見ていた。
「俺はただ地球人がおいしいって聴いたからちょっと行ってサクッと食べて帰ってこようって思っただけなんだよ」
「やめてよ! そんな野蛮なこと! 私たちはエリートなのよ。地球に行くからには礼儀ってものがあるでしょ」
「礼儀ってなんだよ。どうせ食われちまう地球人に向かって『こんにちは、今からあなたを食べますね』なんて言うのかよ」
「当たり前じゃない! それが挨拶ってものでしょ」
「この惑星は礼儀にこだわりすぎるんだよ。そりゃあ勝手に他の星に乗り込んでその星の住人を襲って食べつくす野蛮な奴らと同じにされるのはごめんだけどさ。だからってちょっと地球に行くくらいで試験はないだろう」
「そんなこと言っても決まりは決まりよ。諦めなさい」
「あーあ。こんなことなら第一志望をアメリカにすればよかったよ」
「あなた、確か日本を選んだわよね」
「日本が美しいって聞いてたんだよ。それがまさか、日本語がこんなに難しいとは」
「あはは、バカね。英語のほうが簡単なのに」
「んなこと知らなかったんだよ。だいたい何だよこれ。何で空の雲と虫の蜘蛛が同じ『くも』なんだよ。何で降る雨と食べる飴が同じ『あめ』なんだよ。マジで意味わかんねえ」
「懐かしいわね。私も昔日本語を覚えようと思ったけど止めたわ」
「そもそもさぁ、何でひらがなとカタカナと漢字があるんだ? ひらがなを覚えたと思ったら次はカタカナ、やっと二つ覚えたと思ったら今度は漢字って」
「ふふふ。それで? 試験はどこまでいったの?」
「筆記試験はなんとか終わった」
「あら、すごいじゃない! それで?」
「次は実技試験だとよ」
「実技!?」
「地球人と出会ったら体をこう曲げて頭を下げて挨拶して名刺交換するんだって。それで居酒屋に行って『とりあえず生』って言って酒っていう飲み物を飲みながら仕事の愚痴を話すんだと」
「やだぁ~、何それ、おもしろい!」
「おもしろくねえよ! さんざん愚痴を聴かされ説教されて、あげく『酔っ払った上司』とやらをタクシーという乗り物に乗せてやるんだとよ。なんかバカらしくなって、もう試験も日本も、地球に行くのもやめた! もう地球人なんか食べなくていいわっ」
日本の言語と日本人の習性により地球は救われたのだった。
完
試験 クロノヒョウ @kurono-hyo
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