中国語の発音に苦戦する主人公を通して、言語の面白さと不思議さを軽やかに描き出した作品である。
特に秀逸なのは、「an」と「ang」の違いに悩むシーンから、促音と長音符の謎へと展開する流れだ。
語学学習でありがちな「わからない」という状況を、ユーモアを交えながら描写しつつ、そこから日本語特有の表記法という深い考察へと誘う展開は見事である。
二声を「ヤンキーがカツアゲする時の声」と表現するなど、独特の例えも読者の笑いを誘う。
しかし本作の真骨頂は、私たちが当たり前のように使っている「っ」や「ー」という記号が、実は他の言語にない日本語独自の表現方法かもしれないという気づきにある。
そして最後は試験勉強という現実に引き戻される展開で、知的好奇心と現実の狭間で揺れる学生の姿を温かく描き出している。
言語学的な発見と日常の機微が絶妙にミックスされた、知的で愉快な物語である。
中国語検定を控えた主人公が、中国人の皆さんおよびフランス語ができる店長さんと共に、語学の沼にはまりかけるお話です。
各言語の発音って、こんなに色々なバリエーションがあるのだなあ……と目から鱗が何枚も落ちます。
そしてそれらのいくつかは、日本人にとって発音や聞き取りが困難だということもわかります。
しかしそれは逆も真なりで、日本人には明確に区別できる発音のうち、外国の方々には聞き取りづらい・発音しづらいものも多々あるようで。
軽妙でテンポの良い会話を楽しみながら、知的好奇心も刺激される逸品です。
読み終わった後は、タグにまで豆知識が詰まっていて流石です。