第12話 夜の電話(佳奈子 side)
その夜、私、小峯佳奈子のところに親友の琴平美波から電話がかかってきた。
「あ、佳奈子。あれからどうなった?」
「え、普通にデートしただけだけど」
「だから、どこ行ったのよ」
「映画見て、本屋行って、カフェ行って解散したよ」
「ふうん……で、告白されたの?」
「え!?」
私は思わず何も言えなくなってしまった。
「あ、されたんだあ」
「まあ……そういう感じのことは言われたかな」
「で、付き合うの?」
「いや、断ったけど……」
「え、そうなんだ」
「うん。だって、彼が見てるのは偽物の私だからねえ。ほんとの私を見たら付き合わないでしょ」
「そう? 結構、佳奈子のこと、ちゃんと見てる人なのかなあって思ったけど」
「まあ、多少は分かってもらえてるけどさ」
「……なんかいい感じだと思ったんだけどなあ。じゃあ、あの彼とはもうおしまいなの?」
「いや、またデート行く約束はした」
「え!? あの子、結構粘るねえ」
「うん、そうなのよ。グイグイなのよ」
「へぇー、そんな風に見えなかったけど」
「うん、私も。なのに結構グイグイ来られて……ちょっとやばかった」
「やばいって?」
「だから……落とされそうになった」
「なんだ、佳奈子も彼のこと好きなんじゃない」
「まあそうだけどね……今付き合っても絶対すぐ振られるから」
「そうかなあ。私も無責任なことは言えないけどさ」
「そうだよ。私、自分はやばいやつって自覚あるからねえ」
「うーん、少ししか話してないけど、彼はそれ含めて受け入れてくれそうな感じしたけどなあ」
「またまた、そういうこと言わないでよ。ただでさえ……」
「ただでさえ、何?」
「いや、もうまずいんだから」
「そこまで言うなら付き合っちゃえばいいのに」
「うーん、次デートするからその時考える」
「あんまりゆっくりしてると取られちゃうかもよ」
「そっちのほうがいいかも」
「はあ?」
「だって彼と付き合って別れたら、ダメージでかそうだもん」
「あー、こりゃもう結構落とされてますな……」
「なんでよ」
「ふふ、報告待ってるね。素直になりなよ」
「なってるから」
「あ、素直と言えば、真凛と仲直りしたの?」
「……いや、してない」
「話した?」
「話しかけられはしたけどね」
「ここだけの話ね、真凛も反省してるって。言い過ぎたって」
「そんなこと言ってたんだ」
「そうだよ。だから、ちゃんと話した方が良いよ」
「うん……」
「じゃないと、真凛に言っちゃうからね。あの彼氏君は眼鏡で三つ編みの文学少女好きって」
「ちょ、ちょっと! それは……」
「大丈夫、言わないから。でも、ちゃんと話してよ」
「うん……」
眼鏡で三つ編みの文学少女か……
川端君の理想、そして今の私が偽装している姿だ。その姿は中学時代の本城真凛、そのものだった。
◇◇◇
中学の頃は私と真凛はほんとによく似ていた。私も真凛も眼鏡に三つ編み。だけど、真凛は大人しくて本好きの文学少女。私はアニメ好き、BL好きの騒がしい子、と性格は真逆だった。私と真凛と琴平美波は席が近かったことで仲良くなり、真凛からは本の良さを教えてもらい、私はアニメのすばらしさを真凛に教えた。
私と真凛は地味でモテることは無かったけど、美波は違った。おしゃれだし、可愛いし、男子にはすごくモテた。格好良い彼氏も居た。それに対し、私は何も思わなかったけど、真凛はうらやましいと感じていたようだ。
同じ高校に進学した私と真凛だけど、それを期に真凛は高校デビューをすると言い出した。美波のようにおしゃれで垢抜けた存在になる、と。そして、私にも同時にそうしようと持ちかけてきた。私はその必要を感じなかったし、眼鏡に三つ編みが好きだった。そして、清楚な真凛が好きだった。だから、私は反対した。それで大げんかして、今は話さなくなってしまった。
私が川端君と付き合わないのは、もちろん、ほんとの私のことをまだ川端君が十分分かっていないという思いもある。だけど、もっと大きいのは本当に川端君が好きになるべきなのは真凛なんじゃないか、と思うからだ。
私は真凛を元通りにすることをあきらめていない。でも、それが叶ったときには川端君は真凛を選ぶだろうな、って思う。いつかは私は川端君に選ばれなくなる運命。だから、付き合いたくないのだ。
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