3. クランベリーソーダ。
(眠れない夜には)
結局、僕は何も成長していなかった。
あのとき奈美が何を言いかけたのか。
何故僕は、言葉を途切れさせてしまったのか。
心の中に隠したままの剣を抜いて振りかざし、臆病という名の魔物を断ち切りたかった。
大切と思えば思うほど、慎重になる。
慎重、ね。
そんな風に言えば聞こえが良くなる気がするけど、ただ臆病なだけなんだ。
今、僕と奈美は偶然にも同じ県にいるけど、違う街でそれぞれの生活を送っている。
連絡を入れれば繋がりはするだろうけど、まだ連絡一つとったことはない。
ふとした瞬間に、今まで奈美といた時間が切り取った写真のように鮮やかに蘇る。
どれもが大切な宝物だ。
プールで水を掛けっこしたり、隣同士の席の時、授業が終わっていないのに2人で教室の曇った窓に落書きをしに駆け出して先生に怒られたり、キャンプや海水浴も、肝試しや地区対抗リレーも、数々の行事には必ず隣に奈美が居た。数えきれない思い出たち。
だけど……だからなのか、もしも僕が今 奈美と話したら、もしかしたら 悲しい顔をしてしまうかもしれない。
近いようで遠い、埋まりそうにもない。そう、思ってしまっているから。
奈美を繋ぎ止めることは 頑張れば出来るかもしれない。
もしも奈美に触れたなら、解けない魔法にかかってしまうかもしれない。
僕は奈美のことを誰よりも大切に思っている。それだけは確かなことだ。
だけど僕は、あの日 奈美に背を向けた。
背を向けてしまったんだ。
僕が手を伸ばすことはできない。
この先 奈美を、汚すことなんかできない。
僕には到底、できないことなんだ。
ごめん。
臆病でごめん。
境界線、まだ消えてなかったみたい。
どこで僕はこんな風になったのだろう。
◇◆◇
あの雪降る日から2年と少しが経ち、大学生活も3年目を迎えた。
奈美が居ないこの街で、僕は誰かを好きになれるのだろうか。
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