第16話 記憶
女神レフィス?
一体誰の事だろうか?
「ああ、やっぱり覚えていないのか。」
覚えていない、とは?
人違いではないだろうか?
「あの、どういうことですか?」
思い切って、そう聞いてみた。
すると、悪魔の王は
「お前達は下がれ。」
と、私を連れてきた悪魔たちにとても冷たい声で言った。
「はっ!」
悪魔たちは私の目の前にいる悪魔の王に向かって頭を下げて、その場から去った。
「こっちへこい。」
悪魔の王はそう言った。
私は、言われた通りに悪魔の王に近づいた。
「今日、貴様を呼んだのは、久しぶりに貴様の気配がしたからなんだ。」
どういうことだろうか。
そう思い、私が首をかしげてみると、
「お前、今までの魔王ではないだろう?」
どうやら、魔王の肉体の中身が変わったことに気が付いたらしい。
「ええ、そうですよ。それがどうかしましたか?」
「この間、魂が入れ替わったのを感じたんだ。誰にその肉体に入れられたんだ?」
「たぶん、私が強さを望んだから天使がこの肉体に転生(?)させてくれたんだと思います。」
「なるほど。お前は強さを望んだのか。どうしてだ?」
ここは、下手に嘘をついてもばれるだろう。
本当のことを言うしかない。
「復讐したかったから、です。」
「へえ、誰に?」
そう聞かれた瞬間、ぞくっと、背筋に悪寒が走った。なんだか怖い。
しかし、相変わらず悪魔の王はにこにこと笑ったままだ。
本当の事を言わなければならないだろうか。
いや、でも嘘をついてもたぶんばれるし、言うしかないか。
「攻略対象達とヒロインに、です。」
嘘ではない。
この言い方ではきっと悪魔の王はわからないだろう。誰の事か。
「なるほど。あいつらか。」
にっこりと笑って悪魔の王はそう言った。
どうやら誰の事か分かったらしい。
どうしてだろうか。
私と同じように前世でこの世界が舞台のゲームをプレイしていたのだろうか。
「ねえ、君はさこれ覚えている?」
そう言って、悪魔の王は何やら首輪のようなものを見せてきた。
「あ。」
世界樹、時神様、悪魔、天使。
記憶が、誰かの記憶が、一気に流れてきた。
『助けて。』
そう、そうだ。
それで、私は――私は?
私は、誰?
私は――?
ルキ。
ルキ?
あれ?
私は、誰?
思い出しそうに、なった。
でも、それだけだった。
「思い出したか?」
「ごめん、思い出せな、かった。」
「そうか。」
少し残念そうな顔で悪魔の王――ルキは少しうつむいた。
「名前は思い出したよ。私は、レフィス。あなたの名前はルキでしょう?」
「ああ、そうだよ。そこは思い出せたんだね。」
「うん。」
「一つ、良いことを教えてあげよう」
「え?」
良いこと?
「攻略対象達やヒロインはもう、死んでいるよ。」
「え?」
うそ、でしょ?
「嘘じゃないよ。」
「――そんなの、嘘、だ。」
だって、私は。
私は、私は、――私は?
私は、今まで復讐のために、復讐のためだけに、生きてきたのに?
急に、そんなこと言われたって。
「あははっ。」
混乱している私を愉快そうにルキがみつめる。
「あ、あ、あぁ___。」
「ねえ、レフィス。今度こそ、君を殺したい。」
え?
どういうこと?
「え_?」
私がそう呟いた瞬間、ルキは何もない空間から鎌のようなものを取り出して、私の方に向けた。私は頑張ってその鎌をよけた。
「ふふっ。良く避けたね。すごいよ。俺、お前が俺の家族を殺した恨み、忘れてないから。」
すごく冷たい冷徹な声でルキはそう言った。
どういうこと?
私が、ルキの家族を殺した?
しらない。
そんな記憶、ない。
「どういうこと?」
「貴様が覚えていようがいまいが関係ない。俺は俺の復讐を果たすのみ。最後に貴様ごときに攻略対象達とヒロインが死んだことを教えてあげたことだけ、感謝するがいい。それは、事実だから。」
そう言って、ルキは鎌を構えなおした。
本当は、死んだことを伝えた時の復讐できないという事実を前にして絶望したレフィスの表情を見てざまぁ、と思いたかっただけだけど、という言葉をルキが心の中で付け足していたのは、誰も知らない。
「そ、んな_?」
あ、でも良かったかもしれない。
私は、復讐をしようとする中で自分が自分でなくなっていくのが怖かった。
もう、やめてしまおう。
誰かに罵られるかもしれないけれど、私の復讐はここで終わりでいいんだ。
もう、疲れたよ。
私はもう死んでもいいかもしれない。
99回も、もう生きたのだから。
「いっそのこと、殺してくれ。」
「あはははっ。いいねその顔っ!死ね。『黒線血花』」
ルキがそう呟くと。
ルキの背後からでてきた禍々しい魔力の塊が、私の方へむかってきた。
これは避けないとまずいのかもしれない。
けれどそれがなんだ?
もういいんだ。
私は死にたいのだから。
体が固定されているかのように動かない。
魔力不足かな?
そんなことを考えていると、その禍々しい魔力の塊は、思いっきり私に直撃した。
「ぐ_、うあ、_あ、ぁ」
痛い。
とてつもなく、痛い。
助けて。誰か。
やっぱり、死にたくない。
疲れたけど、こんなにも苦しいのなら、まだ生きていた方がいい。
肌が燃えて、焦げ付いていく。
風圧で爪がはがれそうになる。
皮膚がむけて、血が出そう。
痛い。痛い。痛い。
『大丈夫?』
頭の中に、誰かの声が響いた。
あなたは、誰?
『私?私の名前は____。世界樹の精霊なの。君を助けに来たの。』
名前だけ聞き取れなかった。
でも、私を助けてくれるの?
『うん。助けてほしい?』
もちろん。
『じゃあ、『世界樹よ、我を助けたまへ。この世の理は遠ざけて。我のみを助けにあらわれたまへ。理遠助我。』って唱えて。』
あ、うん。わかった。
私は、それを言おうと、口を動かそうとする。
しかし、先ほどのルキの技の影響で体が動かない。
ぱくぱく、と口が動くだけで言葉を発せられない。
『言えない?』
ちょっと難しいかもしれない。
『じゃあ、心の中で唱えるだけでもいいよ。呪文はあくまで『気』を一部に集中させるために行うものだから。』
わかった。
私は、心の中で呪文を唱えた。
すると、目の前が光った。
「おお!成功した!ありがとう、レフィスちゃん。」
先ほどの声がした。
体が動かないので、じっと前を見つめていると、そこにはさらさらに光り輝く金髪に美しい虹色の瞳の少女があらわれた。
その少女を見ると、ルキは目を見開いて驚いた。
「貴様、どうやって世界樹の精霊を召喚した!?演唱も何もしていなかったはずのにどうやって?」
と、かなり驚いた様子だった。
やっぱりふつうは演唱的な何かをして召喚するものなんだ。
なんか演唱なしで召喚できちゃった。
あははっ。
「さて、レフィスちゃん。召喚してくれたお礼に、この
そう言って、世界樹の精霊は、金色と桜色の混ざった美しい錫杖をルキに向けた。
「そう簡単に殺されてたまるか。俺の復讐はまだ、終わっていない。そのレフィスの生意気でむかつく面をたたき割るまでは、な!」
そう言って、ルキは鎌を構えなおした。
うーん、どうしよう。
私、体動かないから戦えないんだよね。
かといって、このままこの場所にいると世界樹の精霊さんが戦いずらいだろうし、どこにどこうかな。
次の瞬間、私の頭の中に声が響いた。
『あ、やっとつながった。魔王様!ご報告させていただきたいことがあります!』
その声は、ラフィスの声だった。
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