空白を埋める

氷魚

プロローグ


これはなんだ…?


目の前にある遺影を茫然として見つめる一人の少年。遺影に手を伸ばして、嗚咽を漏らす。あまりにも悲痛な叫びだった。

親友が死んだ。それも自殺という最悪な形で親友はこの世から去った。

第一発見者は少年だった。二か月間、行方不明だった親友から連絡があり、少年は親友の暮らすアパートに訪れた。そして、インターホンを押す。しかし、インターホンを押しても反応がなかった。まだ戻っていないのか?と思っていると、物音がした。不審に思った少年は、ドアノブに手をかけた。――鍵はかかっていなかった。不用心だなと注意しようと思い、部屋に足を踏み入れた。

そこで信じられない光景を目の当たりにした少年は叫んだ。親友が首を吊っていたのだ。慌てて彼の体を下ろし、救急車を呼ぶ。彼はもう息をしていなかった。頬を叩き、彼の名前を呼び続ける。一縷の希望をかけて呼び続けたのだ。そんなかすかな希望を一瞬でかき消されるものが見つかった。

彼の遺書であった。少年に向けての遺書だと思われる。



”深晴へ


弱い俺を許してくれ。”



そんな書き出しから始まった遺書。手が震えている。



”俺さ、男しか好きになれないんだ。それを深晴に知られたくなかった。”



衝撃の告白が綴られていた。少年、深晴はその秘密を知らなかったのだ。



”軽蔑されると思った。そんなわけないなって分かっていても、本当のことを知られるのが怖くて仕方がなかった。”



軽蔑なんてするわけないと、青白い顔をした親友を見やった。



”そんな俺に手を差し伸べてくれた人がいたんだ。ものすごく、大好きな人だった。”



彼には、恋人がいた…?

全部知っていると思っていたのに、何も知らなかった自分が許せなかった。彼が悩んでいることに気づかなかった。気づけたら、自殺なんてさせなかった。



”でも、その人に裏切られた。もう生きる意味が見いだせなくなった。”



彼は最愛の人に裏切られたのだ。それで――…。



”俺はお前と親友になれてよかったよ。心から誇りに思う。先に逝く俺を許してくれ。

来世でまた親友になろうぜ。


輝斗より”




そこで遺書は終わっていた。その後、救急車のサイレン音が聞こえてきたが、深晴の耳にはもう届いていなかった。


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