第5話 濃厚な口づけ

 根元ねもと小幸こゆきはVTuberのさちだった。

 このことを本人の口から聞き、やはりという思いと、こんなことあるんだなという驚愕とが心の中で入り混じった。


「会いたかった?」

「そう。大知たいちは小説家のとも、だよね?」

「そうだけど……どうしてわかったんだ?」


「この学校をモデルにして作品、書いてるでしょ?」

「そうだな。そのことはあとがきなんかでも公表してる」

「会いたいなぁと思って、先生に協力までしてもらって探したんだ」


「どうしてそこまでして……会うだけならサイン会にでも来ればいいだろ?」

「それだと、作家とお客の関係でしかないじゃん。私はもっと仲良くなりたいと思ったの」


「俺はそんなふうに思われる程の人間じゃ……」

「同じだなって思ったの」

「同じ?」


「そう。私もね。学校に馴染めなくて、周りは部活とか、勉強とか、とにかく夢中になれることがあって。でも、私にはそういうのがなくて。そんな時に始めたのがVTuberだったの。


 初めは全然観てくれる人がいなくて、やめようかな? 向いてないのかな? そう思ってたんだよね。


 でも、ともに――大知たいちに救われた。『小説を書いてコメント力を鍛えてます』そのコメントをみて、試しに調べてみたら、たくさんの作品を書いてて、私もやろうって気になって。


 なんていうのかな? 二人三脚してるような気持ちになったの。どちらかが止まったら、もうひとりも止まってしまうような。実際はそうなるとは限らないってわかってるんだけど……とものためにもやめられないな。


 私ひとりでやってるんじゃないんだなってそう思えた。だから部活動のように、みんなでなにかをしてるって気になれたんだ。そう思わせてくれたともに会って、仲良くなれたらなって、ずっと思ってた。


 だから会えて嬉しい」


 こんなふうに思ってもらえるなんて俺は幸せ者だな。

 俺のことをまっすぐ見てくる瞳は直視できない程に輝いていて、恥ずかしさゆえに逸らしてしまう。

 この気持ちに応えたい。


「救われたのは俺の方だよ。VTuberとしてのさちは――小幸こゆきは輝いてて、俺の生きがいで。だから、俺も会えて嬉しい」


 それから俺らはしばらく、誰もいないふたりきり部室で、見つめ合い、気づいた時には抱き合って、濃厚な口づけを交わしていた。

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